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窓に目を向けると冷たい雨がまだ降り続いていた。
「午後から晴れるって言っていたのに…」
この一週間、城北マキは娘の学校行事や夫の勤め先まで書類を届けたりして、慌ただしく時間に追われて過ごした。
「カフェオレでも飲もうかな…」
午前中に家事を片し、一人のランチも簡単に済ませたところだ。
二十六歳の時に夫のマナブと結婚し、翌年には娘のヒカリを授かった。
勤めていた会社は、妊娠をきっかけに退社した。就職で苦労した割に、出産や育児が迫っていて未練みたいなものは湧かなかった。
「フゥ」
自宅リビングのソファーは昼間のマキが一番落ち着ける場所だ。ここに座って読書もするし、編み物もする。スマホをイジるのも大抵はココでする。
気になる歌手のブログを眺め、新曲が発表されれば試聴もしたし、何より彼女のライフスタイには憧れもあった。
東京郊外に建つこの分譲マンションも、当時からなかなかの人気物件だった。第一回目の抽選会ではアタリを逃し、ダメ元で二回目の抽選会に参加して当選した。
人気な理由は、マンションが駅と通路で結ばれ、雨でも傘がいらない。しかも駅ビルには大型のショピングセンターが用意されていたから、日用品から衣類、雑貨と運転免許のないマキには有り難かった。
しかも娘のヒカリが小学生にあがる前に、引っ越しを済ませられたらと夫婦で考えた。
頭金にはマキが独身時代にコツコツと貯めた二百万円を使い、残りはこれから三十五年間、ボーナス併用で支払っていく。
払い終える頃には、娘も嫁ぎ、マキも夫も白髪頭になっていることだろう。
「そろそろ買い換え時かもな…」
長年使い続けてきたマグカップは、わざわざ実家で使っていたモノを今でも使っている。
捨てたくないと思っている訳でもないのだが、持ち心地や口当たりも丁度いい。ただカップの縁は欠けていたし、側面のイラストは擦れて剥げかけていた。
「そうだった。断りの連絡しておかなきゃ!」
カフェオレも大半を飲み、テーブルに置いたスマホを手に取った。
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