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大学時代は色んな意味で、マキを別世界に誘った。
関西の地方都市でのんびりと高校までを過ごしたマキにとって、東京のキャンパスライフは、まるでドラマの世界だった。
知り合う男の子は、間違いなく車を持っていたし、その車も実家の父親が乗っている実用的な国産車ではなかった。
風を浴びて緑の山道を走る。
オープンカーに乗ったのも、付き合っていたカレが教えてくれた。
高校生の頃、どこかに行く時は自転車だった。
服を買うのも、デートするのも、それが普通で当たり前だった。
丘の上に建つレストランでカレとランチをする。
海が見える。遠くの水平線には、異国から寄港するのか、大型船が浮かんでいた。
「みんな、どうしてるかなぁ」
夢のような大学時代、でもマキは必ずと言っていいほど長い休みには故郷へ帰った。
都会暮らしも楽しかったが、故郷も好きだった。
ただ年月が経てば、いろんなものが変わる。
もうしばらく帰郷していない。思えば娘の出産以来かも知れない。
久しぶりの同窓会に参加したいのは山々だった。
ただ小学生の娘がいては、そう簡単に家を空けることは出来ないのが本音だった。
「また誘ってね!」
断りの文面の最後に一言添えた。
今度、帰郷出来るとしたら早くても来年の正月、それも叶いそうにない。
マキはいつになる事だろかとため息をついた。
十八歳で上京し、一人暮らしを始めた。
実家からの仕送りだけでは余裕はなく、一年生の時からアルバイトも経験した。
初めてのアルバイトは大学近くの雑貨屋で、同じ大学の学生だけでなく、芸能人もぶらりと立ち寄るような評判な店だった。
東京の街が凄いのは、そんな店が何処にでもあって、それぞれがキチンと個性を発揮している。
マキは働くことがとても楽しかった。一緒に働くみんなも良い人だったし、髭面の店長も個性派でお洒落だ。
憧れていた東京生活が、マキの日常になった。
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