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髪を栗色に染めたのは、東京で一人暮らしを始めた春先のことだった。
「随分と雰囲気が変わったでしょ?」
美容室で髪を切るのは、もちろん初めてのことではない。
でも田舎で暮していた頃は、窓から見える景色がこんなにも都会的ではなかった。
それに美容室といっても、その両側を金物屋と郵便局が陣取っていた。
片側一車線の道路を挟んだ向かい側にあるスポーツ店には随分と世話になった。
「私もマキちゃんくらい身長が欲しかったな」
鏡越しに微笑む美容師の女の人から言われた。
「小さい方が羨ましいです」
高校生の頃、マキは女子の中でも一番か二番目に背が高かった。
それは小学生の頃からの悩みとも繋がる。
並んで歩くとみんなよりも頭一つ高いことも珍しくない。
可愛い格好が似合わない気がして、洋服選びには苦労した。
「百七十センチは無いですよ!」
「そんな事ないわよ。ウチの店でもヘアーメークのイベントするんだけど、モデルはもっと高かったりするのよ」
「でもモデルさんは特別でしょ?」
マキにとって、テレビや雑誌の世界は月や星と同じくらい遠くにあった。
「渋谷とか歩いていてみたら? すぐに声掛けられるから!」
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