第1章【誕生】

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 そのまま勤め先のネジ工場に、歩いて向かう。  また、いつもと変わらない1日を過ごすのか。  小さなネジを何個も何個も、ただ作るだけの1日が。  おっさんばかりで、女っ気の無い職場にただ一人の女性と言えば、昨年還暦を迎えた事務のおばちゃん。暇を見てはかりんとうを食べている。  いまでも自分はこの工場のマドンナだと思い込んでいる。  良夫は思う。早く目をさましなさいと。  朝礼が始まる。工場長の朝の挨拶と1日の目標。そして、ラジオ体操。  8時半から10時の休憩を挟んで12時まで仕事。お昼は各自弁当を持ち寄ったり外に食べにいく。  良夫はコンビニで買った菓子パン二つにコーヒー牛乳。  それから昼休み。公園まで歩いてベンチでタバコをふかしている。  そこに同僚の勝重がやってきた。 「田中~」と声をかける。 「ん? 勝重くんか、なんだい?」  二人は同い年で、職場では勝重が一年半ほど後輩にあたる。  つい先日まで休暇をとり、新婚旅行でタイに行っていた。 「寒いのに何してんだよ」 「別に……」  勝重は手に紙袋を持っている。 「これ、渡そうと思ってさ」と良夫に紙袋を渡した。  中を見ると箱があり、開けてみると、白地に赤や黄色等で彩やかな色彩を施した、木製の口を開けたサルのようなお面だった。 「なにこれ?」と良夫が尋ねる。
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