155人が本棚に入れています
本棚に追加
そのまま勤め先のネジ工場に、歩いて向かう。
また、いつもと変わらない1日を過ごすのか。
小さなネジを何個も何個も、ただ作るだけの1日が。
おっさんばかりで、女っ気の無い職場にただ一人の女性と言えば、昨年還暦を迎えた事務のおばちゃん。暇を見てはかりんとうを食べている。
いまでも自分はこの工場のマドンナだと思い込んでいる。
良夫は思う。早く目をさましなさいと。
朝礼が始まる。工場長の朝の挨拶と1日の目標。そして、ラジオ体操。
8時半から10時の休憩を挟んで12時まで仕事。お昼は各自弁当を持ち寄ったり外に食べにいく。
良夫はコンビニで買った菓子パン二つにコーヒー牛乳。
それから昼休み。公園まで歩いてベンチでタバコをふかしている。
そこに同僚の勝重がやってきた。
「田中~」と声をかける。
「ん? 勝重くんか、なんだい?」
二人は同い年で、職場では勝重が一年半ほど後輩にあたる。
つい先日まで休暇をとり、新婚旅行でタイに行っていた。
「寒いのに何してんだよ」
「別に……」
勝重は手に紙袋を持っている。
「これ、渡そうと思ってさ」と良夫に紙袋を渡した。
中を見ると箱があり、開けてみると、白地に赤や黄色等で彩やかな色彩を施した、木製の口を開けたサルのようなお面だった。
「なにこれ?」と良夫が尋ねる。
最初のコメントを投稿しよう!