第1章【誕生】

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 なぜ、こんな目に合う?  なぜ、俺を痛める?  金がほしいのか?  金なんてもってない。  口の中が熱い。鉄の味がする。  殺すのか?  俺を殺すのか?  同僚は結婚して幸せな日々を送っている。なのに俺はなぜ?  笑ったって?  笑ってたかも知れないが、君達を見て笑っちゃいない。  心の中でそう叫び、無抵抗のまま殴られ続け、意識が遠のく。 (死ぬのか? なんの幸せもないまま?)  子供の頃に父を亡くし、女手一つで育ててくれた母に、当時の自分がニコニコしながら話している姿が見えた。 「将来、おまわりさんになるんだ。悪い人を捕まえるんだ」  父は借金を苦に、自分たちを残して首を吊った。  母は自分が中学生の頃に過労で亡くなった。祖母に引き取られ祖母も、自分が25のときに他界した。  自分には兄弟もいない。  大切な者は誰もいない。死んだって誰が悲しむものか。 (寒い。痛い。ん? あれ? 俺、死んだのかな?)  良夫はゆっくりと目を開けた。  さっきの空き地だ。  あの連中は? (助かった? 生きてるのか?)  夢ではないが現実であってほしくなかった。  ゆっくり体を起こす。  誰もいない。  死ななかった。生きていた。  そして……泣いた。  その横には、お土産にもらったお面が、紙袋から顔を出していた。
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