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年賀状は毎年のように送った。
勿論、日本の彼の実家宛てに・・
彼は中学を卒業する前にアメリカに留学して行った。
その後もドイツ、フランス、イタリアと言った具合に留学先が変り、年賀状を送ろうにも今何処の国に居るのかさえ判らない。
仕方なく私の実家から歩いて2分の彼の実家に送っていたのだ。
「二年前って、じゃ何で今まで電話くれなかったの?」
「だって先週だもん、僕がこれ見たのは・・
ああ、だからかな?君に会いたくなったの」
彼を初めて見たのは中学の入学式の日だった。
クラス分けの為に体育館の入り口に貼られた大きな紙の前で、彼は長い間一人で立っていた。
寝坊した母をおいて一人で先に来た私は、その張り紙の前で自分が入るクラスを探す。
一クラス35人位の時代だクラスも6組まであった。
クラス名簿の中の自分の名前を中々探せない。
「君、名前は?」
急に声を掛けられて彼を見た。
「松岡奈々美」
「マツオカ・・ナナミ・・あった!3組だよ。
僕と同じ」
女のように綺麗な顔をしていた。
「ありがとう・・
だけどクラスが分ってるのにどうして中に入らないの?」
そう聞いた私に彼は平然と言う。
「僕?いいんだ、僕は帰るから」
「帰るって・・入学式は?」
「そんなもの出ないよ」
「どうして?」
私は驚いて彼を見た。
「ん?そうだな・・寒いだけだから?」
彼は半分茶化すように答えた。
「はあ?寒い・・
じゃ、教科書とかはどうするの?」
「ああ~それが有ったな・・忘れてた・・
丁度いいや、君持って来てよ」
「えっ?持って来てって、どうやって?
家だって知らないし・・
貴方の名前も知らないのよ」
慌てる私の顔を覗き込む。
「大丈夫だ、君の家2丁目の角の家だろ。
大きな柿の木のある」
「そうだけど・・
何で知ってるの?」
「僕の家、君の家から直ぐだもん。
後で取りに行くよ」
そう言うと本当に帰ってしまった。
呆れながら彼の後ろ姿を見ていると、母が彼と入れ違う様に校門を入って来て私を見つけた。
「奈々ちゃんごめんね、クラスは見つけられた?」
「うん、3組だった」
「そう、早く入りましょう、式が始まっちゃう」
母に急かされて中に入り掛けた。
「あっ」
「どうしたの?」
母が私を見る。
「あの子の名前、聞き忘れた」
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