突然は必然?

3/7
前へ
/93ページ
次へ
年賀状は毎年のように送った。 勿論、日本の彼の実家宛てに・・ 彼は中学を卒業する前にアメリカに留学して行った。 その後もドイツ、フランス、イタリアと言った具合に留学先が変り、年賀状を送ろうにも今何処の国に居るのかさえ判らない。 仕方なく私の実家から歩いて2分の彼の実家に送っていたのだ。 「二年前って、じゃ何で今まで電話くれなかったの?」 「だって先週だもん、僕がこれ見たのは・・ ああ、だからかな?君に会いたくなったの」 彼を初めて見たのは中学の入学式の日だった。 クラス分けの為に体育館の入り口に貼られた大きな紙の前で、彼は長い間一人で立っていた。 寝坊した母をおいて一人で先に来た私は、その張り紙の前で自分が入るクラスを探す。 一クラス35人位の時代だクラスも6組まであった。 クラス名簿の中の自分の名前を中々探せない。 「君、名前は?」 急に声を掛けられて彼を見た。 「松岡奈々美」 「マツオカ・・ナナミ・・あった!3組だよ。 僕と同じ」 女のように綺麗な顔をしていた。 「ありがとう・・ だけどクラスが分ってるのにどうして中に入らないの?」 そう聞いた私に彼は平然と言う。 「僕?いいんだ、僕は帰るから」 「帰るって・・入学式は?」 「そんなもの出ないよ」 「どうして?」 私は驚いて彼を見た。 「ん?そうだな・・寒いだけだから?」 彼は半分茶化すように答えた。 「はあ?寒い・・ じゃ、教科書とかはどうするの?」 「ああ~それが有ったな・・忘れてた・・ 丁度いいや、君持って来てよ」 「えっ?持って来てって、どうやって? 家だって知らないし・・ 貴方の名前も知らないのよ」 慌てる私の顔を覗き込む。 「大丈夫だ、君の家2丁目の角の家だろ。 大きな柿の木のある」 「そうだけど・・ 何で知ってるの?」 「僕の家、君の家から直ぐだもん。 後で取りに行くよ」 そう言うと本当に帰ってしまった。 呆れながら彼の後ろ姿を見ていると、母が彼と入れ違う様に校門を入って来て私を見つけた。 「奈々ちゃんごめんね、クラスは見つけられた?」 「うん、3組だった」 「そう、早く入りましょう、式が始まっちゃう」 母に急かされて中に入り掛けた。 「あっ」 「どうしたの?」 母が私を見る。 「あの子の名前、聞き忘れた」
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加