二つ目の真実

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「いいわ、この娘は置いて先に車を頼んだ場所に・・」 男性が私達二人を残しその場を離れた。 「もう一度言うわ、慶吾から逃げなさい。 私達と来るのよ」 真剣な顔で私に詰寄る。 「私、慶吾に黙って行けません」 そう言うと彼女は意外な話を始めた。 「ダメよ、貴女このままだと慶吾に殺される」 「殺される?私が?慶吾に?」 「貴女、慶吾に私の事何と聞いてるの?」 もう一度そう聞く。 「慶吾がどう話したのかは知らないけど、私はあの子の母親よ」 「知っています。 慶吾に聞きました」 「なら、彼が人工授精で生まれた事は?」 「聞いています」 「そう、話したの・・ でも、人を殺した事は聞いてないでしょ?」 「どう言う事ですか?」 彼女は慶吾が追って来ない事を確かめるように周りを見た。 「私に病気の弟がいた事は聞いた?」 「はい」 「その弟の為に、母と私の身体に父が受精卵を移植した事は?」 「それも聞いてます」 彼女は少し不思議そうに私を見直す。 「もしかしたら慶吾は本当に貴女を愛してるのかもしれない」 そう言うと私を見直す。 私も少し不思議に思って彼女を見た。 慶吾の話とは少し印象が違って見えたからだ。 彼女はまた話し出した。 「私達の父は元々医者になる為に勉強した人だった。 母の身体が弱かった為にインターン迄で辞めてしまったけれど。 弟の命が残り僅かになり、ドナーも見つからないとなって父は焦った。 そして弟の為に自分で作った受精卵を母と私に移植したの。 私も弟を助けたかったから黙って父に従ったわ。 でも体の弱い母の子宮は異物であるそれを受け入れず若かった私だけが妊娠したの。 卵子は母にも私にも4~5個づつ移植されてたから、最初は4つ、私の中で新しい命が宿ったわ。 4ヶ月を過ぎる頃、1つ、また1つとお腹の子が消えていった。 7ヶ月を過ぎた時私の中に残ったのは、あの子、慶吾一人だった。 8ヶ月に入った頃急に私の体調が悪くなって、父は陣痛促進剤を使って慶吾を私から取りあげた。 でも彼は産声を上げなかった。 産まれてきた慶吾を見た父は言葉も出なかったらしい。 彼はその両手に肉の塊を握り締め、その口にも赤黒い塊を咥えていたそうよ。 生まれて直ぐに泣かなかったのはそのせいだった。
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