二つ目の真実

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父は慶吾の口からそれを取り除き、その両手からも取り除いて産湯をつかわせた。 それでも彼は泣かなかった。 でも息はしっかりとしていたの。 そんな赤ちゃん、今までに見た事も聞いたことも無い。 私は父の勧めで彼を母に預け、アメリカの病院に入院したの。 彼を産んだ事で私は二度と子供が出来ない身体になった。 私の子宮は中から誰かに噛み付かれたように、 ボロボロになってた。 私は身体が回復すると日本の学校への復学を父に願った。 生まれた子も見てみたかった。 でも父はアメリカに居るようにと言ったわ。 そしてひと言、『此処にあった病院の呪かも知れない』 そう言ったの。 何の事?と聞くと、お前は知らない方が良いといったわ。 その秋、あんなに辛い思いをしたのに私達の努力は報われず、直に弟がこの世を去った。 慶吾の事も不要になった。 でもせっかく産まれた命、父は亡くなった弟の代りに彼を育てた。 私は父に言われるまま彼がアメリカに留学して来るまでの15年間、慶吾には会わなかった。 彼は留学して来たと言っても、私が住んでいた街から、 日本を2つ分位離れた街に住んでいて、 会いに行くのも大変だった。 それに、父は何故か私の事を慶吾には話さなかった。 自分を産み落としたのが、実の姉だとは言えなかったのだと思った。 それでも私は慶吾に会いたかった。 14歳でアメリカに来て恋人も出来たけれど、私に子供が出来ないと知ると結婚の話までした相手も私から去った。 私にはもう慶吾しかいない。 そう思った。 でも父は私に慶吾と会う事を禁じたの。 『あの子は人じゃない、悪魔だ』と言って」 私はお姉さんの言葉に反論した。 「悪魔だなんて、私、その頃の慶吾を知ってます。 少し無口で冷たい感じはしたけどごく普通の男の子でした」 私の言葉に彼女も力なく笑う。 「私もそう思ったわ。 でも父が言ったの、慶吾は近所の女の子を二人も殺したって・・」 そんな・・あの頃、確かに同級生が二人、事故で死んだと聞いた事はある。 でもそれに慶吾が関っていたなど聞いた事がなかった。 「慶吾は幼い時から色んな顔を持ってた。 父が言ったわ。 あの子はお腹の中で消えた兄弟の性格を、総て持って産まれて来た多重人格者だって。
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