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私は知らなかった。
丁度その時、洋服を取りに慶吾が私の部屋を訪ねていた事を。
そして、燃え残ったハガキを彼が持ち去った事も・・
慶吾は私から距離を置き始めた。
コンサートも一人で現地入りする。
しかも、終わると何処のホテルに泊っているのかさえ教えない。
日本でのコンサートを最後に引退するとまで言い出した。
もう私の話など聞く耳も持たなかった。
私は密かに慶吾に人を付けて監視を続けた。
そして、貴女を見つけた。
慶吾が日本で唯一、心を許したかも知れない相手・・
でももし、貴女が慶吾を拒んだら、あの子の総てを知って離れようとしたら、あの子は貴女を殺すかも知れない。
そう思って此処に来たの。
貴女を慶吾から守る為に・・」
私は彼女の話をただ驚いて聞いた。
そして、思い当たる慶吾の行動を思い出した。
「解った?
それなら早く逃げなさい」
彼女は私を急かす。
後ろから声が掛けられた。
「それで満足か?」
慶吾だった。
私達に追いついて彼女の話を聞いていたらしい。
悲しそうに私を見る。
「奈々美、おいで」
そう言って私に手を差し伸べた。
私は迷わずその手を掴もうと手を伸ばした。
それを見た彼女が私を突き飛ばしす。
「逃げなさい、慶吾は私が何とかする」
そう叫んだ。
立ち上がろうとする私に慶吾が駆け寄る。
彼女が慶吾の前に立ちはだかった。
「もうやめろよ、何をしても元には戻れない。
もう信じてないだろ?あんたも、僕も」
風が強くなる。
慶吾の身体も風で揺れた。
急に突風が吹て三人の足がよろける。
慶吾を残して彼女と二人崖から落ちそうになる。
「奈々美、捕まれ!」
彼の声にどうにか二人とも岩に掴まった。
慶吾が私に手を差し出す
「奈々美早く掴まれ」
私がその手を掴もうとすると彼女が先に捕まえた。
「奈々美、待ってろ」
慶吾は彼女を先に引き上げてもう一度私に手を伸ばす。
彼の手が私に触れた瞬間、足場が崩れて崖から落ちた。
もうダメだと思った時だ、慶吾が私目掛けて海へ飛び込んだ。
空中で私を捕まえると身体を丸めて私を包む。
時間にしたら何秒もないのにまるでスローモーションの映像のように見えた。
「奈々美・・」
慶吾が私を呼ぶ。
私は彼の腕の中で目を閉じる。
慶吾は背中から海に落ちた。
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