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彼等は女性の心を持ちながら、男性の感性も持ち合わせている。
この仕事には打って付けだ。
とても私では敵わないと悟った頃、思い切って独立をした。
初めは小さな店を自分でやっていたが、三年前に2件目をオープンし若い店長を立てて店を任せた。
父が急に亡くなり母や妹の生活を支える為もあったが、今どきのトレンドについて行けないと思ったからだ。
今は2軒の店を周り接客のプロセスを見るだけだ。
昼過ぎに店に出て、夜は業者やデザイナーと飲みに行く。
まあ、言ってみれば接待役のようなものだ。
こんなふうに此れから先も生きて行くのだろうと思っていた。
4時30分に着くはずの慶吾がまだ出て来ない。
きっと妖艶な女性のようになって出てくるものと目を凝らして探す。
(髪なんか金色にしてたりして・・)
そんな事を思ってロビーへ出てくる人の波を見つめた。
急に肩を叩かれて振り向く。
「なにボケーっとしてんの?
お帰り位言ってよ。」
私は驚いて相手を見た。
黒のパンツに薄手のVネックのサマーセーターを素肌に着、サングラスをした背の高い男性が立っていた。
「慶・・吾?」
「他に誰を待ってるの?」
彼は笑いながら私を抱きしめた。
「うん綺麗になった。
胸もCカップ位かな?」
「ちょっとやめてよ大きな声で・・」
てっきり女装した彼が来ると思っていたので言葉に詰まった。
「なに?僕がいい男すぎて言葉がでないか?」
慶吾の言うとおりだっだ。
あまりにもイケメン過ぎて言葉が出ない。
忘れ掛けていた恋心が頭を擡げた。
「お帰り、慶吾」
「うん、ただいま」
やっと彼が私を放した。
彼の後ろには本当に山のようにスーツケースが積まれたキャリーカーがあった。
「凄い荷物ね」
「暫く日本にいる心算だから必要な物をみんな持って来たらこうなっちゃって・・」
「送れば良かったのに、大変だったでしょう」
「いや、向こうではポーターを雇ったから・・
でも、こっちっていないんだよね、ポーター」
(どこの国で暮してたんだか・・)
そう思いながら彼を見た。
「これだけ?
車まで運ぶの手伝うわ」
「ああいい。
このキャリーカー結構重いんだ」
昔の慶吾なら私に運ばせて自分は何も持たないで歩くのに。
そう思いながらタクシー乗り場まで並んで歩く。
何となく幸せな気分になった。
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