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それは雪も溶け、春が訪れようとしていた頃。
まだ、冷たい風が吹いていた頃。
『お前、何してんだ?』
…まだ幼い声。5.6歳と言ったところか。
その声が、裏路地に座り込んでるオレにそう言った気がする。
数日も飲まず食わずの生活をしていたオレは、もう頭をあげる力も残っておらず、目線だけ少年に向ける。
『……』
『さみぃのにTシャツ1枚とかバカなのか?』
煽ってくるように話す少年は、ふわふわとした茶色い髪に、吸い込まれるような綺麗な黄色の大きな瞳、少し大きな、高そうな紺色のコートに身を包んでいた。
一目見てわかった。金持ちのボンボンだと。
オレは、そんな奴らが嫌いだ。
『…ほっとけ』
『はぁ?んだよ…親切に声かけてやったのに』
『…ウザイから早くいけ』
『そんなことできるかよ。目の前で人が死にそうだってのに無視なんて、人間のクズがやることだ』
口調とは裏腹に、少年はオレのやせ細った腕を掴み、立ちあげようとする。その手はとても暖かかった。が、まだ小さい餓鬼だ。立ちあげることも出来ず、そのまま後ろに尻餅をついた。
痛い、と涙目になる少年を見てオレは思わず笑ってしまった。
『ハッ…馬鹿だな、お前…』
『う、うるせぇ!!』
つけていたマフラーで顔を覆う少年は顔が真っ赤だった。強がってるただの餓鬼じゃねぇか…。
正義感気取って、誰かに自慢するんだろどうせ…。
すると、後ろから誰かを呼ぶ声が聞こえた。
『アキト様、また1人で家を飛び出して…』
『げっ』
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