myth.01 月の加護をもつ少女

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「……まだ目覚めんのか」  目の前の可愛らしいショートケーキを頬張りながら、眉間にしわを寄せた青年が深い溜息。彼がつつくケーキは本日これで7個目。適度に引き締まっている細身な身体のどこに入っていくのか不思議なほどだ。  部屋には3人の青年と、侍女風の出で立ちをしたひとりの女性。  集められた彼らは初対面というわけでもないらしい。女性も含め、親しげな会話は途切れること無く自然に続けられている。  しかし、この部屋へ集められて数時間。さすがに待つだけのこの状況に飽きてきたようで……。 「起きてから集まっても良かったんじゃねぇの?」 「そうね。みなさん、お仕事もあるでしょうし……」  貴重な時間は過ぎ去っていくばかり。本当に“彼女”が半日も目覚めないのは予想外だった。 「もう一度、様子を見てきます」  待ちくたびれた青年2人と落ち着かない様子の女性。  そんな彼らを眺めながら、3人目の青年は優雅に紅茶の香りと戯れる。 「いいじゃないか。たまにはゆっくり過ごすのも」  穏やかな笑みを浮かべる金髪の青年。彼らの中でもっとも柔らかな表情を向けているにも関わらず、放つ言葉には誰も逆らえないような不思議な力が宿っている。  彼の紅色の瞳が、あやしく揺らめくように輝きだす。まだ見ぬ“彼女”に想いを馳せながら……。 「気長に待とうよ。眠り姫のお目覚めをさ……」
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