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騎士団詰所は雨に包まれている。
しとしとと銀の糸のような雨は一向にやむ気配を見せない。
中庭の紅葉がしっとりと濡れているのが窓から見える。
外廊下を薄着できびきび歩くメイドを見て、寒くは無いのだろうかとフィーナは思った。
執務机に頬杖をつき、温かい湯気の立つ紅茶を飲む。
紅茶によって身体があったまっり、フィーナはほうと吐息を漏らして輝くような長い金の髪を揺らした。
読みかけの書類に目を通そうとして、視界に飛び込んできたものに意識を取られる。
窓の向こう、中庭に何時の間にか現れていた壮年の美丈夫。
濡れるのも構わずに雨降る空をじっと空を見上げている。
「……キース?」
それはフィーナと恋仲にある男だった。
彼女は声を掛けるでもなく、ただ部屋の中から彼を見つめた。
キースは目を閉じる。
それは黙祷を捧げているように見えた。
フィーナは目を逸らす。
読みかけの書類は無視し、別の書類を手に部屋を出る。
のろのろと歩いて、開けた外廊下に差し掛かると今度はそこから中庭を見た。
既にそこにキースの姿はない。
空の雲には僅かな光が差し込んでいる。
直に晴れるのかもしれないが、フィーナには何の感動もなかった。
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