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「わたしはエドナさんの代わりなの?」
思い余ってぶつけたフィーナを、キースは驚いたように見つめた。
「あなたがエドナさんを思い出すことが悪い事とは言わない。だけどわたしは苦しいわ」
エドナとは、若くして亡くなったキースの妻だ。
言葉を返さないキースに怒りを覚え、フィーナはふつふつとした感情に身を任せてしまった。
キースは口は開かないが視線は逸らさない。
それは、中庭で亡き妻エドナを悼んだ事を認めているようだった。
「もしも代わりじゃなく、あなたが心底わたしを愛してくれていても、エドナさんより劣ってその心の多くを知ることが出来ないのなら」
「フィーナ」
「もしそうならば、わたしは今すぐにでもキースとの関係を無しにするわ」
自分は愚かしい事を言っていると、フィーナは思った。
亡妻の存在を知ってキースを選んだのはフィーナであるのに、今キースにフィーナとエドナを秤にかけさせるような真似をしている。
「……確かに俺はエドナを忘れる事は出来ないだろうし、忘れたくない」
一言、一言キースの口から告げられて身が切り裂かれるようだった。
そしてその言葉が、自分を否定しているようで酷く苦しくなった。
淡々と語るキースを、愛する彼をこれほど憎いと思ったことは無い。
「…けれどお前はエドナの代わりではない。…決して」
「……キースは判っていない。わたしが望むのは、わたしだけを見ていてくれる事で、それが得られるのなら他はどうでもいい」
「ならばもう既に良いだろう」
「良くない!……そんな事を言う位なら、わたしから見える場所で何度もエドナさんに黙祷を捧げないで…!」
頬が濡れた感触する。
止め処ない涙が視界をぼやかす。
「……見ていたのか」
「……」
「フィーナ」
キースの柔らかで優しい声に罪悪感が募る。
フィーナが本当に憎いのはこれを許せない彼女自身なのだろう。
フィーナは歪む視界に見えるキースにそう思った。
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