第1章

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突飛な発言に驚いたのか、紫音はわずかに目を見開く。 微弱な変化だが長い付き合いだ、その表情は雄弁に彼女の驚きを語っていた。 まあ、今の所驚きしかない訳だが。 「……」 「……」 「うーん、それはまた…随分と趣向を凝らした冗談ね?」 「冗談だと思うか?」 「思うわ」 即答かよ。 「仮に本気だったとして、私断るわよ? ゆーじは好きだけど知り尽くしてるから興味ないの。他のことの方が知りたいし気になるもの。時間の無駄」 容赦ねえなおい。 俺お豆腐メンタルなんだけど、もうぐしゃぐしゃなんだけど! けど原型がなくてもまだ消えてねえからな、残ってるからなちくしょう! 「まあ聞け紫音、落ち着けお前動揺すんなって」 「してないわよ」 いや少しはしろよ。 じゃなくて、 「いいか、よく考えてもみろ。そりゃ同性愛もお前の興味を惹くだろうがそんなのはすぐ興味なくなってポイ捨てすんだろ? だったらもっと長く興味を惹かれるもんを探求したほうが有意義だと思わねーか?」 「それが“恋愛”だって言うの? 普通ね」 「そうかもな。けど本当に普通かどうか試してみるか?」 「? なにをーー!」 ダン!! 紫音が言い切る前に壁に手をつき彼女を逃さないように閉じ込める。 後ろには壁、左右には俺の腕。 いわゆる『壁ドン』をしている俺は、内心で笑いを堪えながら紫音の様子を伺った。 さすがに今度こそ動揺して狼狽えると思ったのだ。 だがさすがというべきか、すぐに状況を理解した紫音は「なにやってんだコイツ」という顔で俺を睨み、そして一言 「楽しい? これ」 一蹴された。 いや、つーかさ… 「…お前少しは照れろよ」 「きゃ、やだどうしよう、邪魔」 「可愛い感じで邪険にすんな」 「で? 告白の次は強引に壁ドン? それで?」 「…は?」 「終わりなの? お次は?」 「……」 「ふぅん、ないのね。面白いことって言ってたくせに、ないのね。へぇえ」 ほら見たことか、とどや顔を浮かべる目の前の女に今すぐ頭突きをかましたいが、後で返ってくる制裁が怖いのでやめておこう。 代わりにこれを冗談で終わらせるために話題を変えることにした。
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