ストーカー探偵

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岸田は不満顔の木内を見遣り、他の皆に質問した。 「打ち上げの終盤、長内の他に誰が部屋から出て行ったか覚えている奴はいないか?」 誰が出たかと言われも… 岸田さんや長内さんのように声をかけて出て行ったり、木内さんの様に大声で騒いでいたりしていたら記憶に残るけど、黙って出て行く人を1人1人覚えてなんていない。 そう思ったのは纏だけではないようで、皆も首を捻っていた。 「…その缶の口紅、ちょっと見せて貰って良いですか?」 そう言って前に出たのは美穂だ。 缶を受け取り、口紅の跡を眺めた後、岸田に近づいてワイシャツをジッと観察する。 「やっぱりコレ、纏の口紅と同じ色だ。誰かこの中で、纏と同じ口紅を使っている人はいますか?」 美穂はそう呼びかけるが、例え使っていたとしても、犯人と疑われると分かっているのにわざわざ名乗り出る者はいないだろう。 「自分で使っていなくても、誰か他に使っている人を見たってだけでも良いんだけど」 それでも誰も名乗り出ない。 と言うよりも、男子社員はぽかーんだ。 「口紅って、色が違うの?赤なのに?」と問うて。 「当たり前です」と呆れられる会話まで聞こえる。 「そうだよね。以前聞いたけど、このカラーはショップオリジナルカラーで、そのお店に行かないと買えないって聞いたもん。纏、そのお店の場所、誰かに教えた事ある?」 「え、え?…ないけど」 いきなり舞台に上げられた衝撃の展開に動揺する。 なんで私?なんで私の口紅? 「じゃあ、この口紅を持っているは纏だけって事になるよね?」 「え?え?」 「岸田さん」美穂が声をかける。 岸田は黙ったままだ。 「証拠がある以上、私も信じたくはないですけど…」 黙ったままの岸田に美穂が促す。 いったい何がどうなっているの? 分からないまま状況がどんどん進んで行っている。 「でも、本当に私のかどうか…」 混乱する頭で必死に思いついた言い訳がこれだ。 美穂はずんずんと近づいて缶を目の前に差し出す。 「じゃあ良く見てみて、この色。纏のだよね?」 そう見える。でも私はやってない。 「でも、明かりとか乗り具合とかで微妙に違って見える事もあるし…」 ああ…なんて犯人っぽい言い訳なんだろう。 「缶に化粧乗りなんてないよ」 キッパリと美穂が言う。 怖い。こんなに怖い美穂は始めてだ。 美穂は完全に私を疑っているんだ。
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