ストーカー探偵

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私、常月纏(つねつきまとい)の彼は、一流大学を卒業し一流企業に勤め、イケメンで背は高く、優しくて料理洗濯掃除好き。 最高の彼なんだけど、たった一つだけ、欠点があるんです。 「ただいま」 マンションのドアを開けながら一人呟く。 このマンションも彼が借りてくれた部屋で、彼が毎月家賃を出してくれている。 かと言って恩着せがましい事を言うでもなく、私の仕事に関しても、考えを押し付けたり行動を制限したりもしない。 でもただ一つ…。 いつもの様に玄関からヒョイと居間のテーブルを覗く。 テーブルの上には、いつもの様に湯気の立ちのぼる私のマグカップが置いてある。 オートロックのドアを閉め、更に彼が追加した鍵を閉めて居間へ向かう。 マグカップの前のソファには座らず、隙間の開いたクローゼットの前に立った。 一呼吸置き、取っ手を掴んで扉を開けると、中から覗いた格好のままの男が現れた。 「…おかえり」 「…ただいま」 そう、完璧な彼のたった一つの欠点。 彼、我孫子観司(あびこかんし)はストーカーなのです。 「ねえ、観司。私達、付き合ってるんだよ?」 「ああ、愛してるよ」 「さっきまで私の後を付けてたよね?」 「もちろん。愛しているからね」 「いつ、どうやって先回りしたの?」 「企業秘密だ」 「企業じゃないし。観司のお茶も入れるから一緒に飲も」 「俺は纏が飲む姿をここから観ている。ここが一番、纏の姿が良く見えるのだ」 「絶対、隣にいた方が良く見えるでしょ」 「俺は、ただ纏を『見たい』のではない。纏のありのままの姿が『観たい』のだ。ムダ毛を処理したりおならをしたり…」 「サッイテーッッ!!!」 バンッと扉を閉めて、ガンと何かがぶつかる音を聞きながら、ソファにとすんと座り、マグカップの紅茶に口を付ける。 淹れたての香りだ。 本当についさっきまで私の後を付けていたのに、いつの間に先回りをして部屋に入り、紅茶を淹れてくれたのだろう。 私の好きな、アッサムのミルクティー。 いつも私を想って、私の為に行動してくれて、私を一番に考えてくれる。 その時、クローゼットの中から声が聞こえた。 「おい。マグカップは洗うなよ」 「うるさいっ!」 纏はクッションを投げ付けた。
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