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「今、岸田から電話があった。データの入ったパソコンが壊されたらしい」
「壊された?」「岸田さんのパソコン?」「最終データはあれにしか入ってないよね?」
皆口々に不安の言葉を漏らすが、長内は黙って廊下を進む。
途中、纏がトイレの前を通りかかると、ちょうど美穂が中から出て来るところだった。
「何かあったの?」纏に声をかける。
「岸田さんのパソコンが壊されたんだって」
「ええ?」驚きの声を上げ、美穂も後に続く。
そして長内が『第3オフィス』と書かれたドアを開けると、岸田が自分のデスクの前で呆然と立っているのが見えた。
「岸田」
長内が中へ進み、メンバーも後に続いて中に入る。
他の社員たちはドアの前でひそひそと井戸端会議を始めた。
「長内…。見てくれ」
パソコンは何かの液体が掛けられショートしていた。
岸田は事の顛末を話し始めた。
長内に言われた後、キリの良い所で場を離れ、第3オフィスに向った。
ドアを開けて部屋に入り、電気をつけようとするとドンと誰かがぶつかってくる。
酔った身体でふらつき、手がスイッチに当たって明かりが点くと、自分のデスクから煙が出ているのが見えた。
パソコンからだ!
その時点でぶつかって来た相手の事は頭から消えていた。
駆け寄って電源ボタンを押すがウンともスンとも言わない。
机がびっしょりと濡れ、その液体は床へもしたたり落ちていた。
そこで少し冷静さを取り戻し、長内に連絡した、との事だった。
「バックアップは?」
「ない」
「おい!あれだけ定期的に取って置けと言ったのに何やってんだよ!」
「……すまない。だがこんな事になるなんて思わないだろう?いったい誰が、何の為に」
苦渋と怒りで搾り出すように喘ぐ。
「誰がって…イベントで競合するライバル社も無いし、失敗して得をする人間もいない。故意にこんな事をする理由は誰にも無いが、偶然の事故とも思えない」
長内が一人ごちると
「へへっ」と噴き出す者があった。
その場の全員がその笑い声に視線を向ける。
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