ストーカー探偵

7/17
前へ
/17ページ
次へ
木内だった。 「俺がリーダーだったらこんなヘマはしなかったのになぁ」 その言葉を発した瞬間、部屋の空気が針のように尖った。 全員の視線が木内を貫く。 普段は受け流される悪態も今回ばかりは違った。 皆、普段の木内の否定的な態度を見て来ている。 仕事を台無しにする行為を犯してもおかしくない。 そう疑われるには十分な態度だった。 「お、おお…」 厚顔無恥の木内にも流石にこの空気は伝わったようだ。 「木内さん、まさかアンタが?」岸田が言う。 皆の刺すような視線は木内の厚い面の皮を突き抜け顔を歪ませる。 「ち、違う。なんで俺が!俺のはずねーだろ!」 「そうだよ木内さん、アンタいつも岸田や俺のやる事に批判や否定をしていたよな?」 長内が唸る。 「そんな事してねーだろ。アドバイスをしてやってただけだろ」 「…アドバイスだと?」 怒りに震えた長内は、そう言うのが精一杯だった。 「そうだよ。だから上手く行ってたんだ。俺のおかげだろ。この仕事がダメになったら俺の功績が無くなっちまうんだ。俺じゃねーよ」 「お前の功績だと?」 一歩前に進む長内の肩を、岸田が掴んで制す。 「待ってくれ。俺も長内と同じ気持ちだが、やっぱり木内さんじゃあない」 「何故だ」 真っ赤な顔を少しだけ動かし、誰も見ないで言った。 「今思えば、さっきぶつかって行った奴。暗くて見えなかったが、体格的に女性だと思う。ソイツが犯人なら、これをやったのは女性という事になる」 「それみろ!それみろ!」 木内がムキになって叫ぶ。 「だいたい俺はずっと会議室にいたんだ。皆も知ってるよな?俺が一番苦労してこの仕事を…」 「無駄口を叩くなっ!」 岸田の一喝で木内は苦虫を噛み潰したような顔で黙り込んだ。 長内は深く息を吐き、頭を振りながら岸田のデスクへと歩く。 机の液体を指でなぞり、鼻に近づける。 そしてしゃがみ込み 「まだほとんど絨毯に染み込んでいない」 そう言って手を机の陰に伸ばして何かを拾い上げた。 長内は立ち上がり、それを皆に見えるように掲げる。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加