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木内だった。
「俺がリーダーだったらこんなヘマはしなかったのになぁ」
その言葉を発した瞬間、部屋の空気が針のように尖った。
全員の視線が木内を貫く。
普段は受け流される悪態も今回ばかりは違った。
皆、普段の木内の否定的な態度を見て来ている。
仕事を台無しにする行為を犯してもおかしくない。
そう疑われるには十分な態度だった。
「お、おお…」
厚顔無恥の木内にも流石にこの空気は伝わったようだ。
「木内さん、まさかアンタが?」岸田が言う。
皆の刺すような視線は木内の厚い面の皮を突き抜け顔を歪ませる。
「ち、違う。なんで俺が!俺のはずねーだろ!」
「そうだよ木内さん、アンタいつも岸田や俺のやる事に批判や否定をしていたよな?」
長内が唸る。
「そんな事してねーだろ。アドバイスをしてやってただけだろ」
「…アドバイスだと?」
怒りに震えた長内は、そう言うのが精一杯だった。
「そうだよ。だから上手く行ってたんだ。俺のおかげだろ。この仕事がダメになったら俺の功績が無くなっちまうんだ。俺じゃねーよ」
「お前の功績だと?」
一歩前に進む長内の肩を、岸田が掴んで制す。
「待ってくれ。俺も長内と同じ気持ちだが、やっぱり木内さんじゃあない」
「何故だ」
真っ赤な顔を少しだけ動かし、誰も見ないで言った。
「今思えば、さっきぶつかって行った奴。暗くて見えなかったが、体格的に女性だと思う。ソイツが犯人なら、これをやったのは女性という事になる」
「それみろ!それみろ!」
木内がムキになって叫ぶ。
「だいたい俺はずっと会議室にいたんだ。皆も知ってるよな?俺が一番苦労してこの仕事を…」
「無駄口を叩くなっ!」
岸田の一喝で木内は苦虫を噛み潰したような顔で黙り込んだ。
長内は深く息を吐き、頭を振りながら岸田のデスクへと歩く。
机の液体を指でなぞり、鼻に近づける。
そしてしゃがみ込み
「まだほとんど絨毯に染み込んでいない」
そう言って手を机の陰に伸ばして何かを拾い上げた。
長内は立ち上がり、それを皆に見えるように掲げる。
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