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かに見えたが、突然、木内が笑い出した。
「ク、ク、ク、ク…。そうかそうか。そう言う事か。道理でやたらと俺を犯人にしたがるわけだ」
「どういう意味だ?」長内が怪訝な顔で返す。
「長内、お前だろ?お前がやったんだろ。岸田ばっかりチヤホヤされるのがムカついて、足を引っ張りたかったんだろ」
「はあ?」
長内の顔は怒りと笑い半々だ。
「岸田を妬んでるのはお前の方だったんだろ。ぶつかったのは体格的に女だって言ってたよな?それって背が低かったって事じゃあないのか?お前は自分が疑われないようにわざわざ口紅を付けて、缶を置いたりぶつかったりして、女が犯人って証拠を残したんだ」
顔を真っ赤にして何も言えないままの長内に、気を良くした木内は更に続ける。
「変だと思ってたんだよ。都合良く証拠見付けたりスラスラとそれっぽい推理並べたり。守衛に挨拶に行くって出てったのもこの為だったんだよな?最初からこの日を狙って計画してたんだろ。俺に罪をなすり付けるのが目的でなあ!チビで良かったよなあ。上手い計画が立てられて。だが俺の目はごまかせない。俺のような有能な人間がいたのが不運だったなあ!」
今度は長内が涙ぐむ番だった。
衆目の中でコンプレックスを絡めて犯人扱いされ、何か一言でも発したら涙が溢れてきそうだった。
皆の前で涙を流してこれ以上恥をかきたくはなかった。
何も言えずに拳を握って、震える事しか出来なかった。
木内さんの言ってる事はメチャクチャだ。
纏は思った。
だって木内さんのせいにしたいなら、口紅の細工なんてする必要ない。
でも、木内さんが打ち上げで目立っていたから、里奈との共犯に仕立てようとした?
でもでも、長内さんがそんな事をするはずない。理由が無い。
だってあんなに仲の良いコンビだったし、一番頑張っていたのも長内さんだったと思う。
「長内のはずがない」
しばしの沈黙を破ったのは岸田だった。
「俺は長内の人柄を良く知っている。妬まれるような関係ではないし、むしろ俺の方が羨ましいとさえ思っている。そもそもそんな事をする人間ではない事は皆が知っているはずだ。俺は長内を信じる」
もう長内は涙を我慢出来なかった。
しかしその涙は悔しさからくる涙ではなかった。
長内は体を反転させて窓を見詰めて涙を隠す。
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