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「いらっしゃいませ、藤森様ですね? 中へお入りください」
待合室に腰掛けている女性に向かって、西田陽菜は声をかけた。
ここは四階建てのビルの一階にあるテナントである。
陽菜の職業は占い師。
完全予約制にしているのは、あまりにも当たると評判が良過ぎるために、一人で切り盛りすると、昼食や所用の時間が取れないからだ。
見料は一つの質問に対して五千円。
だいたいどのお客様も、二つとか三つとか聞いてくるから、一組が一万円くらい支払ってくれる。
最初は結構高いかなぁと自分でも思っていたけど、評判が評判を呼び、今では平日でも10組以上のお客さまが来てくれるようになった。
お蔭さまで今でこそ十分な売り上げを上げているけれど、まだ二十歳の陽菜が、こんな場所で開業出来ているのは、もちろんそれなりの理由がある。
このビルのオーナーが、祖父の西田虎次郎なのだ。
もちろん世間的にはこれは秘密にしている。
なぜなら、西田虎次郎といえば知る人ぞ知る有名人。関東竜門会西田組という名門ヤクザの組長なのだ。
陽菜の父は五年前の抗争事件ですでに亡くなっていて、祖父の次の跡目は陽菜が継ぐことを組員たちは望んでいるけど、陽菜にはまったくもってその気はなかった。
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