いつか君に捧げた歌 今じゃ哀しいだけの愛の歌

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「なんかさぁ、物足りないんだよね。つぶつぶが全部食べられて、それが当たり前みたいな? それってなんか違うと思うわけよ」 「……あ~、そうか。そういうことか」 私たちは誰も来ない真夜中過ぎのセルフスタンドで、二人ならんで粒入りの缶をぐるぐると振りながら、一口ずつ確かめるように飲んだ。 最後の一口は特に念入りに振り回して、そして、えいやっと口に運ぶ。 ずずっ、ずずっと一滴も残さないようにすすりこんで、そして片目をつぶって飲み口を覗き込んだ。 「よしっ、全部取れた!」 「うぁ、くっそ~、一粒残した!」 飲み終わったあとの、もはや儀式のようなこの動作が、ある意味、缶コーンスープや缶お汁粉の醍醐味なんじゃないのかな。 なんて、私たちはそう思う。 「ところでグミ、ここどこ?」 「ん? ガソスタ」 「見りゃわかるわ。どこのガソスタかって訊いてんのよ」 「たぶん、福井県の三国ってとこかな。さっき看板にそう書いてあった」 「は?」 福井県って、あの北陸の、住みやすい県ランキングとかでよく一位に輝くあの福井県か。 そりゃ、六時間ぐらいかかるわけだわ。 「あんたはいったいどこの海に行く気だぁっ!?」 「え? 日本海?」 「どうしてそうなったのよ?」 「いや、だって真夜中の海に行ったってしょうがないじゃん。やっぱ朝日とか拝みたいでしょ。だからちょうど日が昇るくらいの時間に着く海に行こうと思って」 「待て待て待て」 色々おかしくて突っ込みどころ満載すぎて、いったいどこから言うべきかすごく迷うけど、やっぱり先ずはこれから言わねばなるまい。 「日本海じゃ朝日は拝めないんだよっ!?」 「な、なんだってーー!!??」 日本海で拝めるのは夕日だ。 地理から勉強し直せ、このあんぽんたん娘。 「いや、でも海には違いない」 と、グミが気を取り直して…… ……いや、まったく気にも留めず言い放った。 「せっかくここまで来たんだし、このまま行っちゃおう」 グミはそう言うと、さっさと運転席に乗り込んだ。 私もため息混じりに助手席に座る。 「まぁ、来てしまったものは仕方ないしね。ところで、海ってもう近いの?」 「たしかすぐそこだったと思うけど」
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