私に残されたものは あなたといっしょに歌った歌ひとつ

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「まーたクサい三文ポエム書いてるわね、ミク」 「ちょ、勝手に人のブログ見んな!?」 私は慌てて隣に座るグミの手からケータイを取り上げようとした。 「見て欲しくなかったら、なんでブログになんか載せてんのよ。……わ、こら、あたしのケータイ返せ!」 「知らない人に見せるのと、知り合いに見られるのとじゃ意味が全然違うのよ。こんなガラケー、へし折っちゃる。さっさとスマホに変えちまえ」 「ガラケーのどこが悪いのよ。日本の最先端テクノロジーの結集を舐めないでよね。スマホなんて屁よ、屁! そんなもんばっかり追いかけてるから、また失恋なんかすんのよ!」 「言ったな!? スマホ関係ないのに無理やりこじつけて言ったな!? しかも自分こそ先月、男に振られてるくせに、よくぞいけしゃしゃあと言い放ったな!?」 「ええ、言ったわよ。ついでに絶対アンタから先月の件ほじくりされると分かっていながら、それでもあえて言ったわよ。どうよ、すごいでしょ」 開き直ったグミがえっへんと胸を張った。 ロケットみたいな二つの膨らみが私に向かって挑発的に突き出された。 先月は「どーせ、この胸だけが目当てだったのよぉ」と猫のように背中を丸めて泣いていたのに、すっかりとまぁ元気に立ち直りやがって。 腹ただしいんで揉みしだいちゃろか。 と手を伸ばしかけたところで、 「大盛りたぬき蕎麦ふたつ、お持ちしましたァ」 気だるそうな店員が、カウンター越しに湯気のたつ丼を私たちの前に置いた。 ごとり、と重そうな音を立てて私の前に鎮座した丼には、鰹昆布の風味が立ち上る黄金色の出汁に、細い麺がとっぷりと沈み、そこに島のように天かすが盛られている。 隣のグミが割り箸を折って、いただきますも言わずに蕎麦をズルズルと手繰りだした。 私はカウンター上に置いてあった万能ねぎの容器をとり、丼の中にふりかけた。 天かすの島のみならず丼全体が緑豊かになるまでネギをブチ込む。 グミがそれを見て、丼を抱え込むようにして出汁をすすりながら、言った。 「相変わらず加減ってものを知らないのね」 「これがホントの緑のたぬき………そういやさあ、あのカップ麺て、なんで緑のたぬきなんだろうね」 「なんでって?」 「いや、だってあれかき揚げ蕎麦でしょ。たぬき蕎麦と違うし」 「あ~そうだよねぇ。たね入ってるよねぇ」
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