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「でさぁ」
と、グミがちゅるりと蕎麦をすすりこんで、
「今回は何が原因だったの?」
今回は、って言葉が余計だ。
「……音楽性の違い」
「またぁ? だからあれほどバンドメンバーと恋愛するなって言ったのに」
「彼は最初からメンバーだったんじゃないわよ。いいなぁ、って思ってたからメンバーに入ってもらって、そしたら好きになっちゃってたのよ」
「バンド内に恋愛持ち込んだ時点で終わりって、なんで気づかないかなアンタは。いったいそれで何回失敗してんのよ」
「……五回」
「一年にほぼ一回ペースか。五周年おめでとう、ミク」
「なにその嫌な祝い方?」
「メインボーカルがこんなんなのに、なんでアンタのバンドが解散しないのか。それが一番の不思議だわ」
「私以外のみんなが上手く行き過ぎなのよ。カイト兄さんに、メイコ姉さん。がくぽさんと、ルカさん。それにレン君とリンちゃん。みんなラブラブなのに……なんで私だけっ!?」
「で、新人が来るたびに手を出しては去られるってワケね。そんなことばっかりやってるから“新人つぶしのミク”なんて異名をつけられんのよ」
「潰してないしっ。むしろ潰されてるのは私のほうだしっ!?」
「あぁ、だからそんなにペッタンコなんだ」
「そうそう。何度も潰されて、私の胸はすっかり大平原………おう、そこのネエチャン、ちょっと表出ろや」
そのたわわな胸をもんでやろうか。
いや、もいでやろうか。
「「ごちそうさまでしたぁ」」
「まいどあり~」
暖簾をくぐって外へ出ると、北風が冷たい夜の空気を吹き付けてきた。
「う~、寒っ」
「ねぇミク、この後どうする? カラオケにでも行く?」
「あ~イイねぇ。二人で失恋歌でも歌いまくろうか」
「中島みゆきメドレー、とか?」
「そうそう、“わかれうた” ――道に倒れて誰かの名を 呼び続けたことがありますか 人ごとに言うほどたそがれは やさしい人好しじゃありません♪」
「――別れの気分に味をしめて あなたは私の戸をたたいた 私は別れを忘れたくて あなたの目を見ずに戸を開けた♪」
「――別れはいつもついて来る 幸せの後ろをついて来る それが私のくせなのか いつも目覚めれば一人♪」
「うぁ、沁みる。みゆき姐さん沁みるなぁ」
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