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「――私の帰る家は あなたの声のする街角 冬の雨に打たれて あなたの足音をさがすのよ♪」
「“ひとり上手”キター!」
「――あなたの帰る家は 私を忘れたい街角 肩を抱いているのは 私と似ていない長い髪♪」
「「――心が街角で泣いている ひとりはキライだとすねる ひとり上手とよばないで 心だけ連れてゆかないで 私を置いてゆかないで ひとりが好きなわけじゃないのよ………」」
「…………」
「………」
「……――避けられてるかもしれない予感 それとなくそれとなく感じてた 愛されてるかもしれない期待 かろうじてかろうじてつないだ……♪」
「……ミク、お願い。もうやめて」
「………――うらみます うらみます あたしやさしくなんかないもの うらみます いいやつだと思われなくていいもの………♪」
「その歌はやめてぇぇぇ!?」
“慟哭”からの“うらみ・ます”のメドレーに、ついにグミが悲鳴を上げた。
歌ってる私だって正直、かなりくるものがある。
ダメだ。
今の私たちに、みゆきさんの歌は破壊力が強すぎる。
「あぁ、もう。重い、重すぎる!」
グミが沈んだ気分を振り払うように叫んだ。
「ミク。海行こう、海!」
「なんで?」
「失恋したら海、って昔からの鉄則でしょうが」
「おぉっ!」
そう言われれば、そうかもしれない。
アンニュイな気分を抱えて海岸に佇む、私。
穏やかな波が静かに打ち寄せる浜辺を裸足で歩きながら、朝日に輝く水平線を見つめて、そっと涙を流す……。
うん。
なんかサマになってて、いいんじゃない。
「うん、グミ。行こう、海!」
「よっしゃ、決まり。…あ、そうだ。ミク、ついでにギターも持ってきてよ」
「ギター?」
「せっかくだから海行って歌うのよ」
「おぉっ!」
波打ち際で、波に足を洗いながら、光り輝く水平線に向かって歌う、私。
さよなら、私の恋心。
さよなら、私の青春。
この歌とともに風に乗せて、海の向こうへと連れていって…………
「うん、いいね。なんか、すごくイイ!」
「うっしゃ」
駐車場に停めてあったグミのミニに乗り込んで、さっそく私のアパートに向かった。
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