第一部 「彼女の役割」

11/17
前へ
/17ページ
次へ
 でも、間違いない、この人は入学式の日初めて見たときから、ずっとこうだった。その愛想の悪さときたら、生徒たちの間で評判になるくらいだ。  ……飛鳥さんが僕をじっと見ていた。  「どうかしたかい?」  「いや、なんでもない……」  「ふぅん……じゃ、あたしこっちだから」  飛鳥さんは、何か思い当たった風だったけれど、言葉にはしなかった。  彼女は交差点を渡って去っていった。行く先を目で追ってみると、近くのマンションの敷地内に入っていくのが見えた。住んでいるというのは、嘘ではないらしい。  ……二〇階? 三〇階以上、ある? 窓の数を数えようとして、やめた。とにかく高層のマンションだ。……値段もそうなのかな、飛鳥さんちって、もしかしてもの凄いお金持ち? ここで暮らすのって、どんな感じなんだろう。  平屋の借家住まいには遠い世界の話で、僕はやっぱり考えるのをやめた。まるで違う世界の人が同じクラスにいるのだから、学校というのは面白いところだ、そんなことを思った。  ───そして、僕が飛鳥さんの秘密を、知る日がやってきた。  桜の花は既に散り果てた、四月も下旬に差し掛かった頃だった。みなだいぶ学校にも慣れ、授業もみっちり本格的になってきていた。  その日の授業が終わり、SHR(ショートホームルーム)も済んでみながどやどやと教室を去っていく中、僕と飛鳥さんは担任に呼び止められた。  「えーっと、友納くん、飛鳥さん、ちょっと残って。あなたたち、部活の入部希望届、まだ出してないでしょう」  文武両道を謳う南高では、部活動も学業の一環と位置づけられていて、何らかの部活に必ず入らなくてはならない。一年生はまだ仮入部期間だけれど、正式に各部に入部届を出す前に、実際にどの部活に入部するかとは関係なく、まずその「希望届」を、第三希望まで書いて提出する必要があった。  希望の多い部は、仮入部者や見学者の人数を絞る調整を行ったり、入部自体が抽選になったりするためだ。本当は、入学直後の部活動説明会の翌日には出さなければならないものだったが、僕らは提出していなかった。  「提出必須ですか。希望する部活に入れなくなるかもしれない、ってだけでしょう」  尋ねてみると、担任の返事はこうだった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加