第一部 「彼女の役割」

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 見た目以上に、態度が「変」だった。いてはいけない異物だと、誰もが思ったろう。花畑のようだった場の空気が自然と、冬空の下のように澄んで引き締まった。  「あなたは───」まだ名は知らない、お下げ髪で鈴を振るような声の女子が、黒板に貼られたクラス名簿と当人とを見比べて尋ねた。そこは、出席番号二三番、「飛鳥さくら」という名の生徒が座るはずの席だった。  「これ……、あすかさくら、でいいの?」  「『あ』で始まるんだったら、二三番なわけないだろう」遠く突き放す口調は、とても女子とは思えなかった───というより、これから新生活をともにする仲間に向けてよい態度ではなかった。「覚えておきな。それでひとりと読むんだ」  「ひ(、)とり?」  名を尋ねた女子は、頭にアクセントをつけて返した。たとえば「似鳥」という苗字がある。あるいは「佐藤」でもいい。それと同じように。  「───ああ、ひとりだよ」  けれど飛鳥さくらさんは、平板に、アクセントをつけず答えた。  彼女はそれっきり会話には参加しなかった。やっぱりニヤニヤしたまま、窓の方へと視線を移した。  同調者───というか、「もっと変なヤツ」の登場により、僕へのレッテルははがれたようだった。助かった、と思い、同時に、そう思った自分が恥ずかしく思えた。自分のレッテルは嫌で、彼女にはレッテルを貼り付けてかまわないのか。身勝手すぎるじゃないか。  それに、「変なヤツ」の何が悪いんだと言わんばかりの彼女の態度は、僕の目を啓(ひら)かせるには十分だった。そうだ、どんなかたちであれ、僕は「色をつけられる」ことを望んでいたはずだ。彼女はとびきり鮮やかな自分の色を持っている、それは間違いなかった。たとえそれが何色だったとしても。  飛鳥(ひとり)さくら。  彼女は、「変なヤツ」だった。気味が悪い、と受け止められるほどの奇矯さで、ほとんどのクラスメートはすぐに、彼女を警戒し近づかなくなった。  第一に、見た目が変だった。彼女の白髪は異様だった。老いた印象はなく、肌が色白で瞳の色も薄いので、むしろアルビノに近いだろう。いずれにせよ、教室の中でくっきりと浮かび上がって、目立つ存在だった。
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