第一部 「彼女の役割」

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 むろん、見た目だけで変なヤツ呼ばわりしたら、今の時代、あるべからざる差別意識だと糾弾されてしまうだろう。実際、彼女の容姿に、髪の色以外奇異な部分はない。むしろ、かなり美人でスタイルがいいから、白髪は魅力をいや増すパーツとすらいえる。これは僕だけでなく、多くの男子が認めるところである。  すっきり細い顎の小顔美人だ。ゆるふわショートボブっていうのか、横に広がりのあるショートヘアで、顔全体が菱形に近いシルエットになっている。意図して整えてはいないそうで、自然とそうなるのはうらやましいと女子の誰かが言っていた。  身長や体型は標準的。特に鍛えていたり、ガリガリ机に向かっている様子もなさそうなのに、授業が始まるとすぐ、成績と運動神経は群を抜いていると知れた。そうした基本スペックだけなら、クラスいや学校中のアイドルとして、頂点にいてもおかしくなさそうな人だった。  だけど飛鳥さんは、誰も近寄らないくらいに変なのだ。  女子はだいたいグループを作るものだが、彼女はどのグループにも属さず、いつも独りだった。非コミュというわけではなく、学校生活に必要な、当たり障りのない会話や行動はちゃんとする。二人組を作れと言われてうろたえることもない。けれど普段は、誰とも接することがない。クラスが始まって最初の席替えで、一番人気の後方窓際席をしれっとゲットした彼女は、休み時間や放課後は頬杖を突きながら窓の外を見ているのが常だった。  いま、「頬杖突きながら窓の外を見ているのが常」と述べた。どんな様子を想像するだろうか? 物憂げ? 微笑み? いや───彼女のどこが変といって、最たるものはそこなのだ。彼女はいつも、唇の端をかすかに曲げてニヤニヤ笑っている。  彼女の顔立ちでいちばん特徴的なのは、切れ長の吊り目だ。ただでさえ気が強そうに見えるところへ、そのニヤニヤ笑いが重なると、あざけり、たくらみ、あるいは悪意───そんな印象を呼び起こさずにはおかない。授業中は真面目ですました顔をしていて、教師受けはいいのに、独りだとそんななのだ。
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