episode175 酔狂サーカス②

16/30
前へ
/30ページ
次へ
「助けが必要ですか?」 ひとつ。 まばたきするまで だいぶ時間がかかった。 男は辛抱強く待っていた。 「そうですか――」 しばし目を閉じたまま 僕は征司のことを思った。 『本当のことを知ったら今度こそあの人――』  そして先日 自分が口にした 『――あの人あなたを殺すでしょうね』 恐ろしい言葉を頭の中で反芻した。 「今宵お迎えに上がります」 その声に目を開くと 男はもう僕の隣から姿を消していた。 「アーメン」 唱えた終えた神父は 僕を促すように咳払いした。 今夜――。 献金箱を手に立ち上がる僕の足は 神の御前で子鹿のように震えていた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

224人が本棚に入れています
本棚に追加