living.13

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「っあ!」 「あげはさん…」 抗議しようとすれば静かに名前を呼ばれ、雷を見れば真剣な目。 その真剣な目をジーッと見ていれば、イタズラな目にも見えてきて。 あー、これは遊ぼうとしてるな。 「俺と、結婚してください」 なんて言う。 きっと着ている衣装がソレだから言ってきたに違いない。 「…花嫁に逃げられてすぐに他のヒトなんて。どっちがホントにスキなの?」 マンガを返してって言うと思ったんだろう、そう返されると思わなかったらしくキョトンとする。 だけど、すぐにニヤッと楽しそうに笑って。 「もちろん、スキなのはあげはさんだよ」 一瞬で真剣な目になって続けてくる。 素人に演技を求めないで。 「そう言うクセにあたし以外のヒトと式挙げようとしてたじゃない」 でもなんかムカつくから続くように話を合わせるけど。 「だってあげはさん、俺の言うことひとっつも信用してくれないし」 現実を混ぜてくるから、若干言葉に詰まる。 あたしに対して言ってくる言葉のどれを信用していいかわからない。 「それならまだ、俺のことを信じてくれるヒトの方にいくでしょ?」 浮かべた笑みが、少しだけつき放されたような気がして。 「……そのヒトを騙すの?」 今さらに思う、この半年であたしの中で雷はどんな存在になってるんだろう。 「騙すなんて人聞きの悪い」 「だってそうでしょ?自分の気持ちがそのヒトにあるわけじゃないのに…」 演技だってわかってる、わかるのに…悲しくなる。 なんでそんな感情になるのかはわからないけれど。 でも、なんか……悲しい…… いつの間にか握られていた左手に視線を落とす。
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