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「ごめん……追い詰めてるなんて思ってなくて……」
「別に、あげはさんが思ってるほど追い詰められてなんかないよ?」
ウソだ……
さっき焦ったって言ったじゃない。
ソレって追い詰めてたってことと一緒でしょ。
止まることを忘れたかのように流れる涙をグイッと拭き、真正面で雷の目を見る。
「けじめって言うなら、賭けはあたしの勝ち?」
「俺、今気づいたんだけど、あげはさんに会う前からヒトメボレしてた」
「…会う、前?」
会ってなくてヒトメボレって何?
「お見合い写真、見惚れてた記憶がある」
「え、あたし、雷の写真なんて見てない」
「あー、多忙だったから撮るヒマなくて」
…よくソレでお母さん話進めたな…
イヤ、きっと名前は聞いてるハズだから、写真いらなかったんだろう。
あたしが知らないなんて思ってもなかったと思うし。
「まぁ、だから、初めからあげはさんが勝ってたってこと」
コツンっと額同士をくっつけて。
慣れているハズの至近距離。
雷のホンネを聞いて、初めて今ここで意識した。
「近い…」
全部じゃないだろうけどホンネをぶつけられて、今までみたいに平気でなんかいられない。
近すぎる距離に、動揺も隠しきれなくて。
「俺の負けだから、俺のことスキなようにしていいんだよ?あげはさんがこの生活がイヤって言うんなら、すぐに荷物まとめて出て行くし」
少しでも離れようと試みていると、悲しげな目を見せてくる。
きっと、気づいてるんだ。
確かに今のあたしは、雷のことを恋愛の対象とは見てなくて。
この生活を終わらせることだってできる。
……でも、なんでだろう……
じゃあ、実家帰るって言葉はいっさい、喉に張りついて出てこない。
いろんなわからない感情がグルグル回っていて。
出さなきゃいけない答えが、何も出てこない。
何を考えているかもわからなくなって。
もっと簡単に、答えなんて出るものなんだって思ってた、のに…
いざ、ソレに直面すると、あたしってダメだな…
「……考え、させて……」
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