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「……あたしは雷のこと、ただの同居人としか思ってなかった」
「わかってる、それでもいいんだよ」
あげはさんが俺に対してなんとも想っていないことくらいわかってた。
突きつけられた現実は、正直に言ったら地味にヘコむけど。
頭でわかってるのと、実際言われるのとじゃ全然違う。
でも…だから、きっと、この生活も…これまで…
「あたしのことを想ってくれて、ありがとう。正直、さっき言ってくれたことのほとんどは理解できないけど」
「そう?」
「うん……」
まぁ、相手のスキなところを並べても、本人にしたら理解し難いものだろうけど。
でも、それだけあげはさんのこと見てたって、わかってほしい。
「…この間言い逃げしたようなものだから、もうここにはいないと思ってたんだ」
「帰ろうかなとは、思ったけど…雷に何も言わないままって言うのは後味悪いなぁって」
後味って……
寝覚め悪い、とかじゃなくて?
「あの時考えるって言ったけど、何も考えられなかった」
「急だったし、ムリもないよ」
「十分、考える時間はあったよ一週間くらい。でも、一つだけ…」
座ってても見上げてくるその仕草に、若干ヤラレ気味。
天然悪魔なあげはさんは自身の指を口元にあて、小さく首を右に傾けて。
目を逸らすわけにはいかないから、がんばって耐えるけど。
「せっかくこの生活にも慣れてきたのに…これで終わりって寂しいなって」
寂しいと思ってくれたことが、ソレだけなのに嬉しい。
「あげはさんって案外素直だよね」
「素直かどうか知んないけど、答えはちゃんと出さなきゃダメでしょ?」
ソレが素直なとこだと思う。
俺のことをスキでもなければ、別に何も言わずにここからいなくなってもよかったと思うんだ。
そしたら、ソレが答えだってわかるから。
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