狐狗狸の涙

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 やがて沈黙が苦になり、遂に少年が重い口を開いた。 「――なあ狐狗狸、……それが名前なのか?」  そう聞いてきた少年に、「いや、白狐(びゃっこ)だ」と短く答える。  白い狐だから白狐かよ、それじゃペットにつける名前と同じだ――と少年が指摘する。  すると少女はあからさまに不快な態度を見せるが、少年は構わずこう続けた。 「ちゃんと名前をつけてやるよ。そうだな…………凛。凛だ。今からお前は凛だ」  冗談なのか真剣なのか――自信に満ちた顔で少年はそう言い放つ。  こうして少女は不服ながらも『凛』となった。  必然的に、少年も名乗ろうとしたのだが―― 「竜司。……知っている。……強き名だ」  凛に先に名前を言い当てられてしまう。  知っている――? 「お前には十年前に会っているからな。……忘れぬよ」  竜司は全く覚えていないが、逆に覚えていてもらった事が少し嬉しかった。  こうして『願いを聞き届けるまでは帰れない』――そう話す狐狗狸との一ヶ月限定の奇妙な同棲生活が始まる事になる。  その晩、竜司は壁際にある粗末なシングルベッドに入り、凛は狐化してコタツの中で丸まって眠った。  深夜――何やらモゾモゾと、ふさふさな物体が眠る竜司の懐に潜り込んでくる。  竜司はそれを無意識のうちに撫でながら眠り――  波乱の一日が終わると、翌朝、思いもよらない出来事が起きた。   *** 『トントントントントン――』  何かを刻む音が聞こえる。 「……ん……な、何だ――?」  フワーっと部屋に漂う味噌汁のダシの匂い。  眠りから覚めると、竜司はムックりとベッドの上に身体を起こし、ボーッとした頭でキッチンを見る。  ブラックのシャツとスカート、それに真っ白なエプロンと極め付けのホワイトブリム。  朝食を作るメイド姿の凛がキッチンに立っていたのだ。 「できたぞ。……いつまでも寝てないで朝食にしよう。早くコタツに入るのだ」  まさかの光景に驚きが隠せなかった。  よもや美少女に食事の世話をしてらうなんて――?  寝起きで頭が働かないまま竜司はベッドから出ると、二人は昨日と同じ位置――コタツに向かい合うようにして入った。 「――うん。……この鮭、焼き加減が絶妙だ。……コメも少し固めでバッチり。それに――味噌汁がいい。……薄すぎず濃すぎず、完璧だ。……凛、お前はどこで修業をしたんだ?」
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