二.

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そこは、小さいながらも良い宿だった。落ち着ける部屋に温かな応対。旨い食事にほこほこと暖まる温泉。 宿から見える風景も良い。とりわけ、真昼の露天風呂、そこから見える景色が見事である。 そいつは、海に仕切り岩を入れて岩風呂にしたのではと思えるような、野趣に富む造りをしている。そこから広々とした青い空と海を臨むパノラマは、「絶景」としか云いようがない。 ゆったりとした気分で潮と硫黄の香る湯に浸かっていると、不意に、ぱしゃんという水音がした。 「猿の仕業やな」 岩風呂に投げ込まれたとおぼしき蟹の殻を見て、直感的にそう思った。 同時に、蟹の中身がないのが気になった。猿が食ったのではないかとも一度は考えた。人が食った後の殻を持ってきたのではないかとも。しかし、そのどちらでもないような気がした。 ――中身はどこへ? そこではっ、と目が覚めた。 「何や、夢か……」
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