5人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
そこは、小さいながらも良い宿だった。落ち着ける部屋に温かな応対。旨い食事にほこほこと暖まる温泉。
宿から見える風景も良い。とりわけ、真昼の露天風呂、そこから見える景色が見事である。
そいつは、海に仕切り岩を入れて岩風呂にしたのではと思えるような、野趣に富む造りをしている。そこから広々とした青い空と海を臨むパノラマは、「絶景」としか云いようがない。
ゆったりとした気分で潮と硫黄の香る湯に浸かっていると、不意に、ぱしゃんという水音がした。
「猿の仕業やな」
岩風呂に投げ込まれたとおぼしき蟹の殻を見て、直感的にそう思った。
同時に、蟹の中身がないのが気になった。猿が食ったのではないかとも一度は考えた。人が食った後の殻を持ってきたのではないかとも。しかし、そのどちらでもないような気がした。
――中身はどこへ?
そこではっ、と目が覚めた。
「何や、夢か……」
最初のコメントを投稿しよう!