一.

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犯人はわかっていた。猿田武彦だ。けれども逮捕できなかった。証拠が一つもなく、その上猿田には、清子との面識も殺す理由も何もなかったからである。 なぜなら猿田は、旅館に縁もゆかりもない、臼井の部下だからだ。たまたま現場に同行しただけの。 だが猿田だ。猿田が犯人なのだ。猿田以外にあり得ない。どうしてか、臼井はそう確信していた。そして、臼井以外の人間も。 清子の父栄作も、その妻である女将の栗子も、番頭の馬場も、板前の蜂谷も。 鑑識員も、猿田以外の部下も、同僚も、上司も皆。 しかし、証拠も何も――
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