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今俺は、三つ星レストランの個室で母さんと並んで座って、婚約者とその親御さんを待ってる。
俺に婚約者がいたこと、今日会うことは昨日聞かされたばかりでまだ実感がわかない。
俺はこの話は断るつもりでいる。
だって俺には、小さい頃からずっと片想いしてる人がいるから。
だけどどんな人か気になったり、どきどき緊張はするもので、さっきからお水を飲む手がなかなか止まらない。
「失礼します、お連れ様をお連れしました。」
(来たっ!)
その声を聞いた母さんが立ったので、俺も慌てて立ち上がる。
そのタイミングを見計らったように襖が開いた。
「お待たせしてしまいすみません。」
「いえ、そんなに待ってませんから。私達もさっき着いたところですし。」
隣での会話なんてもう、耳に入ってこない。
会話だけじゃない。
さっきまで聞こえてた鹿威しの音すら聞こえない。
だって、今目の前にいるのは、俺がずっと片想いしてる人なんだから。
婚約者とその親御さんを待ってた時のどきどきなんて比べようもないくらいどきどきしてる。
いつだって彼といる時はどきどきして、いつものようには話せない。
「よう。ふっ…間抜け面だな。」
「え、まあさ?」
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