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 フウディは一見温和そうな痩せた男だった。だが、その影が見えただけで、ロアータウンの路上から闇に生きる者たちが消えると言われていた。闇を支配するシンジケートの顔役の一人として、闇の住民から恐れられていた。  さりげなくアルテミスは周囲を確認した。どこかに腕利きのガードたちが潜んでいるはずだった。  一瞬見せたアルテミスの鋭い視線に、フウディは足を止めて肩をすくめた。 「なかなか一人にしてもらえなくてな」 「一人でいたい時なんてあるの」  アルテミスの言葉にフウディはニヤリと笑った。 「もう四、五年もすれば美人になりそうな女の子を知っているものでな。口説く時は一人の方がいい」 「その子、今は美人じゃないの」  アルテミスは不服そうに細いおとがいを持ち上げ、首を傾けた。フウディが目を細めた。 「まだ胸のあたりが、な」 「朝から言ってくれるわね」  アルテミスは手を挙げ、叩くふりをした。  アルテミスがシビリアンポリスになった時、一番驚いたのはフウディだった。が、一番喜んだのもまたフウディだった。アルテミスには生まれた時から知っている気のいい年寄りであり、フウディ自身、アルテミスにそう思われることを望んでいた。犯罪者の頂点にいる者と取り締まる側にいる者は時にはその関係を不思議に思ったが、さほど気にすることもなく心の中で折り合いをつけていた。  フウディは両手を伸ばし、体をそらせた。 「健康に気を使って、二百才まで生きるつもりだからな。あとたった三十年。それまでに新しい延命技術が開発されるかもしれん」 「そんなに生きてどうするの」 「記録を残すだけさ。サイボーグ化しないで延命処理だけで生きた最高齢者としてな」 「人工皮膚はサイボーグ化じゃない?」  フウディはニヤリと笑ってみせた。 「これは自前の皮膚だ。ギルベストに処理してもらった」  育ての親であるギルベスト・ヌールの名前を聞き、アルテミスは少し表情を変えた。二人の関係を知っているフウディは、すぐに話を変えた。 「ま、そのくらい生きていれば、な。口説くだけではなく、おまえさんの結婚式にも出られるだろう」 「アタシが結婚するまで、そんなに時間がかかるってわけ。失礼ね」  アルテミスの声にフウディは笑った。 「これから学校かい」 「そう。新学期が始まったから。結婚まで確かに時間があるわ」  アルテミスは憂鬱そうな声で答えた。
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