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フウディが目を細めた。
「ハイスクールか。懐かしいな」
「覚えてるの。サブチップなしで」
「たかが二世紀も経たない前のことだ。年をとると昔のことは面白いように思い出せる。その記憶が正しいのかどうかは分からんが。サブチップにばかり頼っていては人生面白くないぞ」
アルテミスは少し考え込んだ。子供の頃からサブチップを埋め込んでいる身には、生身の記憶、というものがどういうものか想像できなかった。
アルテミスはため息をついた。
「学校がなければ幸せなんだけど」
「そう嫌うもんじゃない。記憶素子が発達しても、実際に経験して学ばなければならないことも多い。若いうちは特にな。それに仲間と一緒というのも、いい思い出になる」
フウディが声をひそめた。
「身の回りに注意するんだぞ」
「なぜ?」
「昨日の事件、あれはかなりヤバい」
アルテミスは眉をひそめた。「昨日の事件」は交通管制コンピュータのバグとして発表されていた。
「情報管制されているはずよ」
「年を取ると真実しか見えないし、聞こえんものでな」
フウディが笑った。
「フウディ、あんたがヤバいって言うと、本当にヤバい気がするよ」
「本当にヤバいのだよ。ティタニアの物流に乗れば、わしたちにはすぐに分かる。あんなものが突然湧いて出てくるはずがない。今調べさせているから、分かり次第、連絡するよ」
「助かるわ」
「友達には親切にしておくものさ。見返りを期待して、な」
フウディは軽くステップを踏み、再び走り出そうとした。
いきなり左側に光の壁ができて、消えた。
フウディの顔つきが一変した。ヘアバンドの下からシールドが現れ、両眼をおおった。
「どこのバカだ」
さらに二回、光の壁が現れた。フウディは左側前方に右手を伸ばした。腕に装着されていたレーザーガンが、トレーナーに穴を開けた。
路上に数人の男女が現れ、フウディの撃った方向に攻撃を仕掛けた。止まっていたエアカーが高度制限を無視して上昇を始めた。
飛び出そうとしたアルテミスの肩をフウディがつかんだ。
「ここはわしたちに任せるんだ」
「アタシはシビリアン・ポリスだよ! 狙撃されて黙ってるわけにいかない」
「狙撃されたのはわしだからな。シビリアン・ポリスが守る必要はない」
「だって……」
「学校に行きなさい。あとで連絡するから」
フウディの優しい声に哀しみの影があった。
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