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肩を押され、アルテミスがフウディから離れた。フウディが左手を上げ、人差し指を伸ばした。
「瞳の色を変えたな。スカイブルーも良かったが、今度の薄い紫も似合っているよ」
「ありがとう」
「心配するな。わしを殺せるものはティタニアにはいない」
フウディは走り出した。すぐにガードたちに囲まれ、やってきたエアカーの中に消えた。憮然とした表情で、アルテミスは遠ざかっていくエアカーを見送った。
「狙撃はフウディを狙ったのかな? アタシじゃなく?」
アルテミスは不機嫌そうに口を尖らせ、バス停に向かいながら情報の検索を始めた。
『照合。リュウイチ・カツラギ。レイネ・カツラギの祖父』
表示された結果を見て、アルテミスは眉をひそめた。
『照合なし、だって? ラザードはどこに照合したんだろう?』
ティタニアで生活する者は定住者、非定住者を問わず、非常事態を想定して情報がコンピュータに登録される。一度登録されると、追跡システムがリアルタイムで情報を更新した。情報の詳細は公開されないが、「いつ、誰が、どこにいたか」が残された。
記録がない人間は、「ティタニアには存在しない人間」だった。
レイネやヒューで検索しても、結果は同じだった。アルテミスは小さく舌打ちをした。
八時を過ぎ、少しずつ人影は増えていった。それでも、これから向かうミドルタウンやほとんど行ったことがないアッパータウンに比べれば、ロアータウン七番街の人通りは少なかった。
天王星十二番めの衛星ティタニアはテラフォーミングできるほど太陽に近くない。四つの地下都市はライフシステムで人工的に生活圏を整えていた。
天候はコンピュータ制御で一定に保つこともできた。アルテミスが住むウェスタネス以外の都市では、固定の天候にしている都市もあった。しかし、ウェスタネスの初期移住者は地球へのノスタルジックな思いと「人間としての感覚を弱らせないため」という理由で、四季の移り変わりを作り、気温や天候を変化させることにし、今に続いていた。
ウェスタネスの冬はマイナス五度近くまで下がり、夏は三十度近くまで上がる。晴れの日も雨の日もあった。暑さが嫌いなアルテミスは夏にはうんざりすることもあったが、それでも暮らしにくいとは思わなかった。
今の季節は初春で、向こう一週間に雨の予報はない。アルテミスがもっとも好きな季節だった。
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