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都市の地下に設置された重力発生用のグラヴィトロンが、地球とほぼ同じ1Gの重力を生み出していた。移住してきたばかりの時代に地球への帰還を考えての設定だった。が、天王星生まれの人間が地球に戻ることは今ではほとんどなくなっていた。
ましてロアータウンの人間ともなると、地球圏どころか木星圏や土星圏に戻る可能性がある者さえ、ゼロに等しかった。
好むと好まざるとにかかわらず、天王星で生まれた人間は生まれた場所で生きていくしかなかった。
移住初期には人も少なかった。作業を自動化していったが、いつも人手は足りなかった。
今では人手は十分にあったが、ほぼ全てを自動化し終えた環境に人手が必要な作業は少なくなっていた。日のあたる場所の仕事はなく、日のあたらない場所の仕事も少ない。
それぞれの都市管理部は様々な仕事を作り出していたが、それでもまだ、そこに住む人全てが参加できるほど仕事を生み出せないでいた。
アルテミスは狙撃の件を納得できないでいた。もやもやした思いを抱えたまま、バス停に着いた。
バス停の前にある雑貨屋がちょうど店を開けているところだった。背の低い、太った女がリモコンでシャッターを開けていた。女はアルテミスに気づくと、食料品が飾られたショーウィンドウから目を離した。アルテミスはいつものように軽く右手を上げた。
顔なじみの雑貨屋の主、マリエの挨拶に、アルテミスは笑みを浮かべて挨拶を返した。
「おはよう。昨日は大変だったね。今日は学校かい?」
「おはよう。今日は学校に行く」
マリエはしげしげとアルテミスを見て、眉をひそめた。
「いつも思うんだけどね。確かに格好いいとは思うよ。でも、若い娘が肌をさらしすぎるのは良くないんじゃないかね」
いつもの小言にアルテミスは肩をすくめた。厚着をしていれば「春先に野暮ったい」と言われていただろう。子供の頃から知るアルテミスに何か教訓めいたことを言うことが、マリエの生きがいのようだった。
「Tシャツには気をつけるよ。首を閉めるようなデザインは嫌いなんだ。でも、そんなに肌を出してるかな?」
アルテミスはショーウィンドウに映った自分を見た。襟ぐりの開いたTシャツから、細い肩が顔を出している。確かに肌をさらしすぎているかもしれない。アルテミスはTシャツの襟に指を掛け、引っ張った。
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