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アルテミスがバスに乗ろうとした時、少し離れて止まったエアバイクから呼はれた。
「アルテミス! こっちに来て」
低いがよく通る声を聞き、アルテミスは肩をすくめた。列から離れ、バイクに近づいた。
「おはよう。レイネ」
「おはよう」
ヒューの後ろに赤のライダースーツを着てフルフェイスのバイザーを上げたレイネが座っていた。
「昨日の今日で、案外大胆だね」
「ヒューとリッチーがいるから大丈夫。ヒューがアルテミスに会いに行くって言うからついてきたの」
二台目のエアバイクに乗っていたライダーがバイクを降り、守るようにレイネの後方に立っていた。自分の名前が聞こえたのか、ライダーがバイザーを上げて振り返った。
見かけはヒューよりはるかに若く見える男だった。だが、ヒューと同じようにアゴから左耳に向かって金属をむき出しにしていた。アルテミスと目が合い、男が軽く会釈をした。
「リチャード・ジャックスだ」
「リッチー? ディックだろう?」
「お嬢様にそんなことを言わせられるか」
アルテミスは少し考えて答えた。
「あ…… うん」
アルテミスが答えに困ると、リッチーは黙って数歩離れたところに立った。
「アルテミス、警護はリッチーに任せろ。話がある」
ヒューに呼ばれ、アルテミスはレイネから離れた。
「なんだよ。これから、学校に行かなきゃならないんだ」
アルテミスがヒューの前に立った。
「小声でいい。お嬢様に聞こえないようにな。お前も聞こえているだろう」
ヒューが小さな声で言った。
「ああ、アウターボーンで増幅できる」
アルテミスは言われたように小声で答えた。
「アウターボーンで増幅できる。聞こえてる」
「カツラギがお呼びだ」
「話を聞いてる? アタシは、学校に、行くんだよ」
「休校だな」
「ふざけんな」
アルテミスの押し殺した声が少し大きかったのか、ヒューの後ろからレイネが顔をのぞかせた。心配そうにアルテミスを見つめながらアルテミスに言った。
「アルテミス、帰っちゃうの?」
アルテミスは肩をすくめた。
「アタシ、これでも学生だから、学校に行かなくちゃ」
「そう……」
レイネがうつむいた。
「こちらのお嬢さんは屋敷にお越しくださいますよ。カツラギ様とのお話が済んだら、レイネ様に連絡いたしましょう」
「えっ! ちょっと!」
ヒューの自信あり気な声にアルテミスが慌てた。
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