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レイネがパネルの上で手を動かすと、踊るように椅子が揺れた。
「凄い椅子だね」
「そうでしょう。じゃあ、私、部屋に戻ってるわ」
レイネがパネルの上で手を動かすと、フロートチェアは回転して屋敷の方に向きを変えた。パネルが光を放っているだけで、特に操作するスイッチやバーのようなものは見当たらなかった。
ガードの一人がレイネの横に立った。
「またあとで。黙って帰らないでね」
「ああ」
レイネの声にアルテミスは曖昧に答えた。
アルテミスはヒューに尋ねた。
「あの椅子、どうなってるの?」
「フロートチェアか。お嬢様用の特注品さ。試験的に開発した小型のアンチグラヴィトロンが仕込んである。あれだけで戦艦一隻買えるほど、開発費がかかっている。商品にはならないが、お嬢様には役に立つ」
「テランのやることはよく分からないね。でも、戦艦よりはいい。確かに生活の役に立ってる」
アルテミスは遠ざかっていくレイネを見ながら言った。
レイネは屋敷に向かう途中で、一度振り返った。楽しそうに手を振られ、アルテミスも左手を上げた。
「だけど、どうにも断れないな。あの声のせいかな。案外強引なお嬢様だ」
アルテミスのつぶやく声に、ヒューは穏やかな表情を見せた。
リッチーが近づき、アルテミスに手を差し出した。
「このバッジを胸につけて。帰りに守衛室に返してください」
「発信機か」
アルテミスは三センチ四方のバッジを受け取った。手のひらの上のバッチと守衛の腰のショックガンを交互に見た。
「たいした装備だね。バッチを返さないと大変な目に遭いそうだ」
リッチーは肩をすくめた。口調が変わった。
「なぁ、お互い仕事なんだ。俺はロアータウンの小娘なんか敷地に入れたくないんだけどな。マッケイン隊長の取り成しだから仕方なく中に入れるんだ」
ヒューは笑った。
「そう言うな。この子はこれでも警官だよ」
「へぇ」
リッチーが目を見張った。アルテミスはTシャツにバッジを付けた。
「これでいい?」
「上等だ。敷地内では絶対外すなよ。侵入者攻撃用システムが設置されている。自動システムで問答無用だ。死にはしないが、当たれば痛い」
「対人用?」
「対サイボーグ用」
「当たれば痛いじゃすまないじゃない!」
リッチーは肩をすくめた。
「自慢の外骨格がどの程度持つか試せるさ」
「了解」
アルテミスは肩をすくめた。
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