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 カツラギは自室のモニタで、アルテミスたちのやりとりを見聞きしていた。 「若いな。時代が変わったということか」  今の時代、見かけで能力を判断できないことは、カツラギもよく知っていた。それはすでに大戦の頃に兆しがあった。カツラギは立ち上がると、窓辺に立った。 「この頃、よく昔のことが思い出す」  カツラギは庭を眺めながら、大戦時や生き返った当時を思い出して考え込んだ。  何が原因で太陽系全域での戦争が起こったのか。  ある者は行き過ぎた地球中心主義者たちの圧政と言うだろうし、ある者は地球から出た宇宙主義者の増長と言うだろう。  どちらにしても、コールドスリープ中の半分死体のような存在にはどうでもいいことだった。  コールドスリープシステム内の温度は七度まで上がっていた。透明な硬質パネルに降りていた霜は溶け、水滴も今はもう消えている。中で眠っている男の意識も、それと共に溶け出し、つながろうとしていた。  ゆっくりと何かが戻ってくる。それが意識だと気づいた時、自分がリュウイチ・カツラギと呼ばれる存在だということも思い出した。それだけを思い出すのに永遠とも思える時間が過ぎたように感じた。  自分が誰かを思い出し、何かをしなければいけないと感じた時、肺が動いた。わずかだが酸素を含んだ空気を吸い込み、細胞が反応を始める。システム内の温度は十二度まで上がっていたが、カツラギは皮膚に冷たさを感じた。意識して息を吸い込む。それは弱々しいものだったが、使われていなかった肺は悲鳴を上げた。 『痛みを感じるってことは生きているってことか』  カツラギは吸った息を吐き出した。何回か試しているうちに体が呼吸のやり方を思い出した。  目を開けたが、焦点が合わない。誰かがいたが、明るい光にシルエットしか見えなかった。カツラギははっきり見ようとしたが、体は細かい動作をまだ思い出せないでいるようだった。諦めてカツラギは目を閉じた。その代わりに、手や足の指を動かした。  ゆっくりと、コールドスリープから蘇生した際の注意が記憶の底から這い出してきた。 『無理は禁物だったな。それにしても、脳って奴はたいしたものだ』  カツラギは驚きながら、訓練で行った通りに体を動かしていった。  指、手首、足首、膝、肘と順に動きを確かめる。違和感はあったが、痛みはなかった。腰と肩を動かし、最後に首を左右に動かした。
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