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 カツラギはこわばった口を動かした。 「だ、じょぶ、そだ、な」  うまく話せないが、それでも、久しぶりに聞く自分の声に、カツラギの頬が緩んだ。  記憶を取り戻し、蘇生した時の最終動作を思い出した。そろそろと手を伸ばし、右側のパネルにある赤いボタンを押した。 「大丈夫か」  スピーカーから声が聞こえた。 「だ、よぅぶ、だ。うあく、なせない」 「無理をするな。話さなくてもいい」  声は緊張しているようだった。 「今からハッチを開ける。注意があるから、しっかり聞いてくれ」 「わかた」 「ハッチが開いても絶対動かないこと。俺たちはサイボーグだが、姿を見て驚くな」  奇妙な指示だとカツラギは考えた。サイボーグは珍しい存在でもない。どのくらい眠っていたのか分からないが、増えこそすれ、減ってはいないだろう。  自分が戦争の渦中にいたことを思い出し、カツラギは眉をひそめた。起こした者たちが友好的だとばかり思い込んでいたが、敵だったとしたら、そうとばかりは限らない。とはいえ、今の自分に何かできるとも思えなかった。  まだ思い出していないことがあるような気がした。  カツラギは不安を感じた。コールドスリープ中に記憶が失われることは知っていた。 『だが、それは二年以上の長期間の場合じゃないか』  ハッチがゆっくりと開いた。  冷たい空気の中に暖かい空気が流れ込んできた。カツラギはかたわらにいた男たちを見て悲鳴に似た空気を漏らした。 「ゆいとりあ・さぼぐ」  カツラギは体を起こそうとして押さえられた。 「そうだ。あんたたちのいうジュピトリアン・サイボーグだ」  顔の一部が金属で覆われた男が言った。 「心配するな。戦争は終わっている。あんたが眠っている間に」 「おわた?」 「そうだ。戦争は終わった」  カツラギの体から力が抜けた。 「医務室に移すが、暴れるな」 「ああ」  体が持ち上がり、ストレッチャーの上に置かれるまで、カツラギは目を閉じていた。医務室の柔らかなベッドに移され、カツラギは目を開けた。見事なあごひげの男が近づいてきた。 「私は医者だ。ハル・グエンというが、ドクターと呼ばれている。神経電位が落ちているな。すぐに直る。脳はもう少し詳しく調べなければならないが、それほどニューロンパターンは崩れていない」  それを聞いて、安堵していいものかどうか、カツラギには分からなかった。
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