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 診察が済むと、右手に筒状の器具が押し付けられた。短い圧縮音が聞こえたが、カツラギは何も感じなかった。 「起きたばかりで悪いが、また少し眠りたまえ。それまでに診断と治療を済ませておく」  男の顔がぼんやりとしだした。 「しかし、一人でも生き残りがいたのは奇跡だな」  眠りにつく直前の言葉に、カツラギは目を開こうとした。  一人? 奇跡?  思い出そうとしたが、何も思い出せない。  カツラギは何が奇跡なのか尋ねようとしたが、あっという間に暗闇の中に飲み込まれてしまった。  次に目が覚めると、体が楽になっていた。そばでモニタを見ていたドクターはカツラギが起きたことに気づくと立ち上がった。 「気分はどうだね」 「ああ、楽になった」  カツラギは体を起こした。こわばっていた口もスムーズに動くようになっていた。 「助けてくれてありがとう」 「礼はいい。君の運が強かったんだ」  ドクターはカツラギの体に器具をあてながら答えた。 「特に異常はないが、何か聞きたいことがあったら言ってくれ」 「私の体のことじゃないんだが、いいか」 「たぶんだが。それは隊長に聞いてもらった方がいいと思うね。君がよければ呼ぶが」 「ああ。お願いする」  待っていると開閉音が聞こえた。  目を開けると、長身の男がドアから入ってきた。蘇生した時、最初に目にした男だった。戦争は終わったと言われていたが、身についた恐怖心は簡単には消えなかった。近づいてきたジュピトリアン・サイボーグを見て、体が震えだした。  カツラギの緊張した表情に気づき、男は足を止めた。 「すぐに理解しろとは言わないが、信じろ。俺たちはあんたをどうこうする気はない」 「理解もして、信じてもいるんだが。刷り込まれた記憶はなかなか変えられないものだな」  カツラギは体を起こした。 「あんたに悪意はないことは分かっている。だが、あんたの顔を見ると教えられたことが先に立って」 「ジュピトリアン・サイボーグは、ためらわずに殺せ、か」 「一瞬ためらえば、殺されるのはこっちだと教えられた」 「古い話だ。もう三十年も経つ」  震えが止まった。 「何だって?」 「古い話だ」 「いや、そうじゃない。三十年とは、なんのことだ」  男は振り向き、ドクターに尋ねた。 「まだ話していないのか」 「私の仕事じゃない」 「少しは気を利かせろよ」  ドクターは肩をすくめた。
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