6人が本棚に入れています
本棚に追加
診察が済むと、右手に筒状の器具が押し付けられた。短い圧縮音が聞こえたが、カツラギは何も感じなかった。
「起きたばかりで悪いが、また少し眠りたまえ。それまでに診断と治療を済ませておく」
男の顔がぼんやりとしだした。
「しかし、一人でも生き残りがいたのは奇跡だな」
眠りにつく直前の言葉に、カツラギは目を開こうとした。
一人? 奇跡?
思い出そうとしたが、何も思い出せない。
カツラギは何が奇跡なのか尋ねようとしたが、あっという間に暗闇の中に飲み込まれてしまった。
次に目が覚めると、体が楽になっていた。そばでモニタを見ていたドクターはカツラギが起きたことに気づくと立ち上がった。
「気分はどうだね」
「ああ、楽になった」
カツラギは体を起こした。こわばっていた口もスムーズに動くようになっていた。
「助けてくれてありがとう」
「礼はいい。君の運が強かったんだ」
ドクターはカツラギの体に器具をあてながら答えた。
「特に異常はないが、何か聞きたいことがあったら言ってくれ」
「私の体のことじゃないんだが、いいか」
「たぶんだが。それは隊長に聞いてもらった方がいいと思うね。君がよければ呼ぶが」
「ああ。お願いする」
待っていると開閉音が聞こえた。
目を開けると、長身の男がドアから入ってきた。蘇生した時、最初に目にした男だった。戦争は終わったと言われていたが、身についた恐怖心は簡単には消えなかった。近づいてきたジュピトリアン・サイボーグを見て、体が震えだした。
カツラギの緊張した表情に気づき、男は足を止めた。
「すぐに理解しろとは言わないが、信じろ。俺たちはあんたをどうこうする気はない」
「理解もして、信じてもいるんだが。刷り込まれた記憶はなかなか変えられないものだな」
カツラギは体を起こした。
「あんたに悪意はないことは分かっている。だが、あんたの顔を見ると教えられたことが先に立って」
「ジュピトリアン・サイボーグは、ためらわずに殺せ、か」
「一瞬ためらえば、殺されるのはこっちだと教えられた」
「古い話だ。もう三十年も経つ」
震えが止まった。
「何だって?」
「古い話だ」
「いや、そうじゃない。三十年とは、なんのことだ」
男は振り向き、ドクターに尋ねた。
「まだ話していないのか」
「私の仕事じゃない」
「少しは気を利かせろよ」
ドクターは肩をすくめた。
最初のコメントを投稿しよう!