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ドクターが一歩下がった。男がカツラギに目を向けた。
「俺はヒュー・マッケイン。ご覧のようにジュピトリアン・サイボーグだ。戦時中は空母『スリーピング・ドラゴン』に乗っていた。知っているか」
「知っている。有名だ。『だった』と言うべきかな。目を覚ませば誰も生きては帰れない、最悪の戦闘空母だ」
「まぁな。おかげで俺は生き残れて、艦長にまでなった。戦後、軍に残ることもできたんだが、戦争にはうんざりだった。それで、大学に入った」
「大学?」
意外な言葉にカツラギは聞き返した。
「せっかく生き残ったんだ。宇宙の神秘の一つくらいは明かしたい、と思ってね」
ヒューは笑みを浮かべた。
「サイボーグ化したおかげで、人生が長くなった。戦争で何かをなくしたと思ってな。それを探しに大学に行ったんだが」
「見つかったのか」
「いや。まだだ」
ヒューの表情が悩ましげなものに変わった。カツラギはその微妙な変化におかしくなった。
「失礼な言い方かもしれないが。よくできているな」
「何が」
「その表情さ。作り物とは思えない」
「あんたが寝ている間に、いろいろな技術革新があったのさ。延命処置もいろいろ開発された。俺もあんたも、あと一世紀くらいは生きていられるだろう。いい時代に目覚めたものだ」
ヒューは笑った。
目を覚ましてから、カツラギは現実と折り合いを付けることに苦労した。ヒューは覚醒した当初から気長にカツラギの相談に乗って、悩みを解消する手助けをしてくれた。
「あんたも覚えているだろうが、俺は戦闘に明け暮れた時代から来た。すぐには気持ちを変えられないよ」
「それはそうだ。起きたばかりだしな。あんたの船。あれは当時の巡洋艦だな。生存者というか、乗員はあんたしかいなかったが。なぜ一人でコールドスリープを?」
カツラギは目を閉じた。ヒューは痛ましそうにカツラギを見た。カツラギはそのまま話し出した。
「記憶が混乱しているかもしれないから、それを考えに入れてくれ。俺は輸送大隊の護衛についていた。シノベの前線基地に物資を運んでいく途中、あんたたちの仲間に襲われたんだ。火星への退路を断たれた俺たちは外に逃げるしかなかった。乗員は脱出させたが、俺は艦長だったので、艦に残って、オトリになった」
「シノベ戦か。あの船の名は『ビシュヌ』か」
「そうだ」
カツラギはうなずいた。
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