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 カツラギの言葉に、ヒューは感銘を受けていた。 「『ビシュヌ』は友軍を逃がそうと一隻で敵を追い払おうとした戦闘艦として、今でも有名だ」  そう言ってから、ヒューが首をひねった。 「それだけの艦で生存者が一人というのは? 『ビシュヌ』の損傷はひどかったが、冷凍睡眠装置があるブロックは無傷だった」  カツラギは微笑んだ。 「脱出は全員に命じた。反論は聞かなかった。俺たちは人口が少なかったから、一人でも多く逃がそうと必死だったよ。それで全員がほかの艦に拾われたかまでは知らないがね」 「なぜ残ったんだ?」 「艦長だったこともあるが…… 俺が設計した艦で、俺が一番使い方をよく知っていたからさ」  カツラギはひとりごとのように話を続けた。 「『ビシュヌ』は補助コンピュータに管制を任せれば、一人でも動かせた。操縦以外の管制をコンピュータに任せ、俺は操縦に専念して全速力で逃げた。だが、逃げ切れずに何発かくらって、エンジンのコントロールができなくなった。最大船速を超えたが、どうすることもできなかった」 「ジュピトリアンの追撃艦隊は徹底していたからな。俺たちに恐怖を感じるのは、そのせいもあるのか。すまなかった」 「いや、もう済んだことだ。三十年も前に…… そうだな…… 戦争は終わっている。知識は古びてしまった。生き返った俺は何をしたらいいんだ?」  ヒューの謝罪に、カツラギの虚ろな声が返ってきた。 「少し休みな。一眠りしたら、一緒に飯でも食おう」 「ああ、ありがとう」  カツラギは再びベッドに横たわった。ヒューはドクターに目配せした。ドクターは立ち上がり、ヒューの後に続いた。部屋を出ると、部屋の照明が暗くなった。  カツラギは目を開いた。意識が長い旅の夢を終えて、現実に戻った。  木々の隙間からアルテミスがこちらを見ていた。カツラギと一瞬目が合うと、さり気なく視線をそらした。 「生体センサーを使ったか。ユラナスの技術もあなどれんな。若くて経験は未熟でも技術でカバーしている」  隙のないアルテミスにカツラギは感心していた。 「若い、か。私は無駄に年を取ってしまったな」  自分が発した虚ろな声は今でも耳に残っていた。 『生き返って何をしたらいいんだ?』 「長く生きたが…… 今でも、あの時の答えは見つかっていない」  カツラギは生い茂る葉を眺め、枯れ果てる前に答えを見つけたい、と考えた。
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