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ヒューとカツラギの関係に不信感が残った。が、それはあとで調べることにして、アルテミスは話を変えた。
「ジュピトリアン・サイボーグは不死身って聞くけど。テランの用心棒を買って出るなんて、不死身の上に金も欲しいの?」
無遠慮な問いに、ヒューは苦笑いを浮かべて答えた。
「メンテナンスに金がかかるからな。ICE創設者の護衛をやっていれば、現状で考えられる最高のメンテナンスが受けられる」
「ICEはサイボーグ関係にも強いんだ」
「ジュピターやサターンの専門企業ほどじゃないが、そこそこには。我々が半分モルモットになっているということもあるがね。軍事ロボット関係はテラの企業に若干劣るくらい。遺伝子工学やナノテクノロジーは…… そうだな…… ユラナシアンに勝てる者は太陽系にはいないだろう」
「どうも」
アルテミスはヒューの賞賛を受け流した。
「敵が多そうだということは分かった。汚い人物かどうかは会って考えるけど、敵はカツラギより汚いヤツだ。あんな子供を狙うなんて」
「子供って…… おまえ、幾つだ」
「十七」
「お嬢様はおまえと同い年だよ」
アルテミスは目を丸くした。
「十三くらいかと思ってた。地球生まれで苦労がないからかな。若く見える」
「よく言う。俺から見れば、おまえもそう変わらん」
玄関の前に立つと、音もなく巨大で重厚なドアが開いた。彫刻が施された黒ずんだドアは本物の木でできていた。
現れたメイドは一瞬きつい目でアルテミスを睨んだ。が、すぐに穏やかな表情で二人に軽く会釈した。ヒューは命令を伝えた。
「私は警護に戻る。屋敷の案内を頼む」
「承知いたしました。ミリと申します」
ヒューはアルテミスに紹介した。
「アタシがカツラギに危害を加えるとは考えないの」
「考えていないが?」
「なんだか無用心だね」
「そうでもない。屋敷の外は俺たちが守り、屋敷の中はミリたちが担当している」
「生体反応があるけど…… ひょっとして、サイボーグ?」
「そうだ。反応は偽装信号だよ」
ミリがアルテミスに微笑みかけた。アルテミスはミリをしげしげと見た。外見の年令はアルテミスと同じくらいだった。茶褐色の髪を黒いカチューシャで留めている。穏やかな表情でも切れ長の目は、わずかにきつく見えた。手の込んだ白いレースの襟の半そでの黒いユニフォームから出ている細い腕も、アルテミスとそれほど変わらない。
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