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 ヒューたちとは違い、見た目ではミリがサイボーグと分からなかった。 『驚いた! 偽装信号も偽とは分からないくらいだ』  アルテミスは舌を巻いた。 「お嬢様を助けていただき、お礼を申し上げます。これからも、よろしくお願いします」  口元をほころばせたミリの礼に、アルテミスは慌てて頭を下げた。 「こちらこそ、よろしく」 「どうぞ、こちらへ」  アルテミスは黙ってミリに従った。アルテミスは嗅ぎ慣れない匂いに小首をかしげた。ちらっとその様子を見たミリが教えた。 「匂いは…… 天井に本物の木材、ひのきを使っているんですよ」 「壁の絵やところどころに飾ってある人形や食器もすごいね」 「油絵も陶磁器も全て本物です」  幾つものドアの前を通り過ぎてから、ミリが立ち止まった。ドアを軽くノックし、中に声をかけた。 「ご主人様。お客様をお連れしました」 「ご苦労」  ミリはドアを開けながら振り返った。 「どうぞ」 「ありがとう」  アルテミスが中に入ると、ドアが閉められた。  奥の大きな窓のそばに男が立っていた。左手の杖で体を支え、窓越しに庭を見ている。アルテミスが居心地の悪さを感じ始めた頃、男はゆっくりと振り返った。  白くなった髪や物腰から初老に見えたが、実際の年令はもっと上だろうとアルテミスは考えた。地球の延命技術の未熟さも、男を見れば分かった。髪の白さは自然のものだが、皮膚は質の悪い人工皮膚独特の灰色がかった色をしている。左目の人工眼の出来も悪く、光に過剰反応して時折異様に輝くことがあった。 「孫を助けてくれて感謝している。私がリュウイチ・カツラギだ」  声帯処理もひどいものだ、とアルテミスは思った。声量はあるが、耳障りなかすれた音が混ざっていた。  アルテミスは黙ってカツラギを見つめた。 「アタシはシビリアンポリスのアルテミス・ヌール。学校を休んでまで来たんだ。用件を聞くよ。礼を言うためだけに、ここへ連れてきたわけじゃないだろう?」 「はっきりものを言うお嬢さんだ。ヒューが気に入るだけのことはある」  カツラギは杖を突きながら部屋の中央に置かれたソファのそばまで、ゆっくりと近づいてきた。歩くたびに頭が不自然に上下した。膝関節がうまく動かないようだった。 「客人に失礼した。座ってくれたまえ」 「長話を聞かされるのは好きじゃない」  ぶっきらぼうにアルテミスは言った。
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