4

7/9
前へ
/108ページ
次へ
 その口調にカツラギは表情をゆるめた。 「長くなるかどうかは君次第だ。ヌール君」 「アルテミスでいいよ」  アルテミスはソファに腰を下ろした。不慣れな柔らかい感触に、腰が落ち着かない。居心地も悪さを感じたアルテミスはソファのフチに腰を下ろし、前かがみに座り直した。  いつでも立ち上がれるような格好を見て、カツラギは勘違いしたようだった。 「気楽に座りたまえ。見かけより防衛体制は整えてある。今すぐにここが襲われることはない」  カツラギはアルテミスの前のソファに座った。 「お屋敷なんて縁がないんでね」 「これから慣れればいい。すぐに慣れる」 「プルートに知り合いはいないから」 「プルート? 何を言い出すかと思えば、プルートか。私には懐かしい場所だ」  アルテミスはカツラギのもう一つの噂を思い出した。 『冥王に出会い、黄泉から戻った男』  カツラギは懐かしそうな表情を浮かべていた。その表情の中に不思議な哀しみがある、とアルテミスは感じた。 「プルートに人はいない。我々が設置してきた自動化された外宇宙調査施設があるだけだ」 「違うよ」  アルテミスのつまらなそうな声に、カツラギは笑った。 「もう一つの意味も知っている。孫は初めてユラナスに来たが、私は何回か来ている。面白い言い回しだな」  カツラギは手を組んだ。どこか遠くを見るような視線で自分の皺の目立つ両手を見ていた。 「死者の王。死者から搾取して富を増やした富裕階級ということだろう。私が富裕階級だということは否定しない。だから、君を高給で雇える」 「アタシを雇う?」 「いつもは仕事が終われば地球に戻るが。今回しばらく私はここに住む。護衛を頼みたい」 「アタシは私兵にはならないよ。これでも警官でね。それに不死身と名高いジュピトリアン・サイボーグの連中がいるじゃないか」 「私の護衛を頼むのではない」  カツラギは穏やかな声で言った。 「孫の護衛だ。まさかヒューたちを学校に通わせるわけにもいくまい」 「学校に行く? アッパータウンの? アタシが?」  アルテミスは目を丸くした。 「一応、ミドルタウンの学校には通ってるけど。アタシはロアータウンの人間だよ」 「ティタニアには緩やかだが階級制があることも知っている。だが、私はティタニアの人間ではないし、プルートと呼ばれるのは揶揄だけではない」  カツラギの声が強くなった。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加